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日外会誌. 86(7): 853-862, 1985


原著

乳癌組織型分類の検討-通常型浸潤癌の組織型細分類とその臨床的検討

児玉乳腺クリニック・京都大学 外科学教室 

児玉 宏

(昭和59年6月26日受付)

I.内容要旨
乳癌の組織型分類を,個々の症例の組織型を決定する際に判定者の性癖にあまり影響されず,また乳癌の予後や再発様態などを比較的よく反映して臨床に役立ち,さらに最近提示されたWHOの乳腺腫瘍組織型分類(第2版)との互換性のあるものにするため,京都大学第2外科における乳癌初回治療症例のうち組織学的検討の可能な771例および自験症例500例の計1271例について詳細な検討を行ない,次のような結論を得た.
1)乳癌取扱い規約・組織学的分類における通常型浸潤癌の3型のうち乳頭腺管癌は,基底膜を破つて浸潤している個所が少なく大部分が乳管内で乳頭状に増殖しているもの(WHO新分類のinvasiv eductal carcinoma with a predominant intraductal componentに相当)を低浸潤癌として別に取扱えば,浸潤傾向の強い乳頭腺管癌と髄様腺管癌とは,その再発率などには大きな差はなく,実際の組織型決定の際に境界線の引きにくい両型を敢えて分ける必要はない.
2)通常型浸潤癌の場合,生存率や再発率を最も大きく反映するのは,全視野のなかで比較浸潤の少ない腫瘍の基本型を示す個所の所見ではなく,腫瘤周辺の硬性間質浸潤(硬癌傾向)の所見の有無である.したがつて,通常型浸潤癌を硬性間質浸潤(硬癌傾向)の有無によつて2分する方法が,個々の症例の組織型と決定するうえでも,予後を予測するためにも好都合と考えられる.
3)これらの結果から,浸潤性乳癌のうち特殊型を除いた通常型浸潤癌を従来のように乳頭腺管癌,髄様腺管癌,硬癌の3型に細分類するよりも,低浸潤癌(WHO:invasive ductal carcinoma with a predominant intraductal component),硬癌傾向を伴わない浸潤癌,硬癌傾向を伴う浸潤癌の3型に細分類する方が,臨床上有用かつ実際的であり,WHO新分類との互換性のうえでも優れているものと思われる.

キーワード
浸潤型乳癌-通常型, 硬性間質浸潤(硬癌傾向), 低浸潤癌

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