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日外会誌. 86(7): 837-845, 1985


原著

肝門部片葉阻血法における血清GPT値,血清GOT値,血清LDH値,血清AL-P値ならび総ビリルビン値の変動に関する臨床的研究

国立ガンセンター 外科

森 孝郎 , 幕内 雅敏 , 小林 純 , 鋤柄 稔 , 山崎 晋 , 長谷川 博

(昭和59年5月22日受付)

I.内容要旨
肝切除に際して,肝離断中の出血量を減少させる目的で,Pringle法やLinらのCrush clamp法が行なわれてきた.しかし,Pringle法では阻血時間が限定されており,またCrush clamp法では,解剖学的肝切除が不可能な領域があるなどの欠点があり,さらに肝硬変症例で,どの程度の阻血時間に耐えうるかについても不明であつた.著者らは,腸管のうつ血を防ぎ,しかも虚血範囲を限定する目的で,肝門部片葉阻血法を考案し,臨床例に施行した.本法は,肝門部で門脈枝,肝動脈枝を剝離,血行遮断したのち片葉の動脈,門脈枝を30分間阻血し,肝の切離を行なつた.肝離断を30分以上を要する場合は,5分間阻血を解除したのち再度阻血した.対象は,肝門部片葉阻血を行なつた45例(肝硬変群32例,非肝硬変群13例)で,阻血を行なわなかつた108例(肝硬変群42例,非肝硬変群66例)を対照とし,術中出血量と各種酵素値につき検討した.1)術中出血量は,肝硬変群,非肝硬変群ともに,阻血症例が非阻血症例に対して,平均約1500mlと有意に(p<0.001)減少した.特に肝亜区域切除術においての術中出血量は,阻血症例が,非阻血症例に比して,平均950ml減少した(p<0.001).2)血清GPT値,血清GOT値,血清LDH値は,肝硬変群,非肝硬変群ともに,術後数日間は術前に比して高値を示したが,阻血症例と非阻血症例との間には同一病日で有意差はほとんど認められなかつた.3)血清総ビリルビン値は,肝硬変群では,術後非阻血症例が阻血症例に比して,同一病日で高値を示す傾向があつた.4)血清AL-P値は,正常範囲内を推移したが,非阻血症例が阻血症例に比して術後数日間低下する傾向があり,この傾向は肝硬変群で顕著であつた.以上により,肝門部片葉阻血法は,術中出血量を減少するには有効な方法であり,さらに術後肝障害を増強する証拠は見あたらず,また,肝硬変群では,術後血清総ビリルビン値の上昇を抑制する傾向を認めた.

キーワード
肝門部片葉阻血法, 肝切除, 術中出血量, 血清総ビリルビン値

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