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日外会誌. 86(5): 576-586, 1985


原著

肝再生における膵ホルモンの役割に関する実験的研究
-門脈血流変換法による-

名古屋大学 医学部外科学第2講座(指導:近藤達平教授)

黒田 博文

(昭和59年8月17日受付)

I.内容要旨
門脈血中のhepatotrophic factorとされる膵ホルモン,特にインスリン,グルカゴンの肝再生に果たす役割を実験的に検討するため,雑種成犬を用いて静脈移植片を使用しない門脈血流変換法を実施し,膵,脾,胃十二指腸領域の血液を肝右葉に,腸管領域の血液を左葉に分離して流入させ,肝切除後の再生状態を早期から完了に至る全過程で比較観察した.
この門脈血流交換法における吻合部の開存は生存例の約70%で確認され,右葉から10%左葉から40%の肝切除を加えると組織血流量は両葉が近似値を示し,門脈血の質的な差による影響について術後4日のDNA合成期から,12週の再生完成期まで長期にわたり追求することができた.
その結果,膵臓血供給の右葉は,術後4日から4週の早期では重量増加や糖原沈着等の量的再生が腸管血供給の左葉より優位を示したが,術後8週から12週の再生完成期では形態的な左右差は消失し,indocyanine green負荷試験による肝機能効率は膵ホルモン消費の低下がみられた腸管血依存側でむしろ良好に維持されることを知つた.
したがつて,肝再生におけるインスリン,グルカゴンの役割は,肝切除後の早期に僅かに形態的再生を促進したものの,機能的には効率が劣り,完成期の所見からも,膵ホルモン分泌が正常な限り内的供給下で十分に肝再生は維持されるものと判断した.

キーワード
門脈血流変換法, 肝切除, 肝再生促進因子, インスリン, グルカゴン

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