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日外会誌. 86(5): 566-575, 1985


原著

吸着型人工肝補助装置の研究
-ポリアミン系多孔性樹脂(PAT)による蛋白結合性物質除去、および肝不全犬治療効果について-

東京大学 医学部第1外科学教室(指導:森岡恭彦教授)

大盛 芳路

(昭和59年8月14日受付)

I.内容要旨
肝不全に対する有効な治療法は未だ確立されていないが,近年肝不全惹起物質のうち蛋白結合性物質の重要性が認識されてきた.そこで,血中の蛋白結合性物質の除去を目的として,新たに開発されたポリアミン系多孔性樹脂(PAT resin)を研究し以下の結果を得た.
1)PAT樹脂はビリルビン,BSPなどの蛋白結合性物質に対して極めて強い選択吸着性を示し,その吸着能はセルロース被覆活性炭XAD-4,XAD-7など従来の非選択的吸着剤に比し優れていた.
2)PAT樹脂を用いたdirect hemoperfusion(DHP)により黄疸ウサギでは総ビリルビンで45%,直接ビリルビンで44%,間接ビリルビンで50%が除去された.また黄疸犬では総ビリルビンで44%,直接ビリルビンで44%,間接ビリルビンで50%が除去され,in vivoにおいてもPAT樹脂が強力なピリルビン吸着能を有することが示された.
3)PAT樹脂を用いたDHPによりイヌ,ウサギ共に血液有形成分の減少が認められたが,prostag-landin D2の併用により血液有形成分の減少は改善する傾向にあつた.
4)阻血性肝不全犬に対するin vivo実験では,対照群の生存時間が10.9時間であつたのに対して,PAT灌流群の生存時間は17.6時間に達し,PAT樹脂を用いたDHPは有意の延命効果をもたらした(p<0.05).即ち,肝不全に対するPAT樹脂の優れた治療効果が示された.なおこの際,血中Al-P,GOT,GPT,アンモニア値の変化はPAT灌流群と対照群との間に有意の差がみられなかつた.
5)イヌを用いたPAT樹脂の安全性実験において,灌流施行後,1ヵ月で得た肺,腎臓に異物沈着等の異常は認めず,PAT樹脂の安全性が確認された.
以上より,PAT樹脂を用いたDHP療法が肝不全に対する新しい治療法となりうることが示唆された.

キーワード
人工肝補助装置, 蛋白結合性物質, direct hemoperfusion, 閉塞性黄疸, 肝不全


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