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日外会誌. 86(4): 381-393, 1985


原著

エンドトキシン微量持続投与中の hyperdynamic state に関する研究

東京大学 医学部第3外科学教室(指導教官名:近藤芳夫教授)

呉 達徳

(昭和59年6月8日受付)

I.内容要旨
臨床的な細菌性ショックの多くはグラム陰性桿菌の敗血症にみられ,その発生機序におけるエンドトキシンの役割が重視されているが,その早期にみられるhyperdynamic stateは実験動物において観察することが難しく,とくにエンドトキシンのbolus injectionによつては起らないとされている.著者は成犬36頭を4群に分け,覚醒状態で電解質液のみを与え飢餓状態に維持したC群11頭,これに微量(10μg/kg/day)のエンドトキシンを持続的に与えたE群7頭,これに加えてブドウ糖(36Kcal/kg/day)を併用したG群11頭,ブドウ糖の代りに等カロリーの脂肪乳剤を併用したF群7頭について,循環動態,および糖・アミノ酸を中心とした代謝特性を実験開始3日目よりはじめ,4日間に亘り追及した.その結果,G群では心拍出量は平均30%の増加を示し,平均動脈圧,全末梢抵抗は有意に低下して,全例hyperdynamic stateを示した.また,F群では最初の24時間hyperdynamic stateがみられたが,その後はhypodynamic stateに移行し,E群では最初からhypodynamic stateにとどまつた.一方,代謝面ではC群でみられた急性飢餓の影響に加えて,E群ではブドウ糖の枯渇,糖新生の亢進,筋蛋白および体脂肪の分解など著しい異化の傾向を示した.これに対し,G群では筋蛋白の分解・消費は比較的軽度に抑えられ,体脂肪の分解も軽度で,エネルギー源は主にブドウ糖に依存していることを示し,hyperdynamic stateにおけるエネルギー代謝の特徴を具えていた.また,F群の変化はE群に近似し,脂肪のみの補給では蛋白質の分解を有効に阻止しえず,hyperdynamic stateを長時間続けることは出来ないことを示した.
以上の成績はエンドトキシンの微量持続投与によつてイヌにおいて細菌性ショックのhyperdynamic stateに近似の状態をつくり得ることを示したものであり,同時にエネルギー源の補給がhyperdynamic state成立の重要な条件であることを明らかにしたものである.

キーワード
hyperdynamic state, エンドトキシン, 血中アミノグラム, 脂肪乳剤


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