[書誌情報] [全文PDF] (2125KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 86(3): 357-361, 1985


原著

動脈内腔内発育を示した脂肪肉腫腫瘍塞栓の 1 例

鳥取大学 医学部第2外科

伊藤 勝朗 , 提嶋 正 , 野津 長 , 荒木 威 , 原 宏 , 森 透

(昭和59年5月25日受付)

I.内容要旨
右大腿部に脂肪肉腫の局所再発を繰り返した既往のある74歳女性が左下肢安静時疼痛を主訴として緊急入院.左下肢阻血症状は強く,その他の異常身体所見として心尖部拡張期ランブル様雑音を伴ううつ血性心不全があり,右肺野にはcoin lesionが認められた.
救肢を目的として緊急手術に踏み切つたが左大腿動脈に拍動はなく,これを切開すると動脈内腔は白色半透明,寒天状の紐状腫瘍組織で完全に満たされていた.その長さは最長20cmで先端は膝窩動脈近傍にまで達していた.この腫瘍束と動脈壁との癒着は,その起始部と思われる左総腸骨動脈部分を除いてはなく,可及的に腫瘍摘出を試みたのちダクロン人工血管を用いて交叉右大腿一左大腿動脈バイパスを置いた.左下肢阻血症状は消失して歩行可能なまでに回復していたが術後24日目に突然死した.
剖検すると左房内腔のほぼ全体を占める巨大腫瘤があり,これは肺静脈を介して右肺転移巣と連続性に繋つていた.突然死の原因は僧帽弁が左房内腫瘤により閉塞されたためと推定された.左総腸骨動脈には,上記紐状腫瘍の根部が残存して,その内腔を塞いでいたが外膜には達していなかつた.原発巣である右大腿には腫瘍の痕跡すら認められなかつた.
後顧するに,右大腿部に発生した脂肪肉腫が肺転移を起し,これが肺静脈を浸潤穿破して連続性に左房内に巨大腫瘤を形成し,またその一部が遊離して塞栓となつて左総腸骨動脈に捕捉され,そこで活着し,さらに末梢に向けて内腔内を発育して遂に腸骨,大腿動脈を閉塞するに至つた経緯が考えられた.
マクロ次元の腫瘍塞栓が,体動脈系で活着し,動脈内腔内発育を示したとの報告は今までになく,腫瘍塞栓の従来の概念からも少し逸脱していてむしろ転移に近い所見なので,それとの関連性について考察を加えて報告した.

キーワード
脂肪肉腫, 腫瘍塞栓, 脂肪肉腫転移


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。