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日外会誌. 86(3): 330-338, 1985


原著

胸腹部ないし腎上部大動脈瘤に対する外科治療とその問題点

川崎医科大学 胸部心臓血管外科

元広 勝美 , 勝村 達喜 , 藤原 巍 , 土光 荘六 , 稲田 洋 , 木曽 昭光

(昭和59年5月22日受付)

I.内容要旨
最近半年間に4例の胸腹部ないし腎上部腹部大動脈瘤を経験した.症例は男3例,女1例で年齢は43~66歳,平均55歳である.成因は大動脈炎症候群2例,非特異性炎症性1例,動脈硬化性1例であつた.術式は全例,いわゆるHardyの方法に準じた.到達法は上半身右下45度側臥位,下半身は仰臥位ないし軽度同軸方向に捻転,第5~7肋間で前側方開胸を行ない,腹部正中切開に連続させ開腹した.大動脈瘤をはさんでその中枢と末梢に主幹グラフトをおき,それより腹部内臓分枝に分枝再建グラフトを吻合し瘤の中枢は永久大動脈クランプで,末梢は同クランプまたは2重結紮法にて瘤を完全空置とした.主幹グラフトは18~22mm×9~11mmのdouble velour woven dacron Y型人工血管を,分枝再建グラフトとして同質の14×7mmY型ないし6mm直型人工血管を用い,また永久クランプは全て東京女子医大式のものを採用したが,これによるtroubleは1例もなかつた.なお下腸間膜動脈の再建は1例に行なつたにすぎない.分枝再建の平均所要時間は腹腔動脈が21分,上腸間膜動脈21分,左腎動脈18分,右腎動脈24分であり,腎に対する特別な保護手段は用いなかつた.手術時間は最長18時間30分,最も短いもので11時間10分であり,術中出血量は2,850~16,500mlであつた.術後の合併症とその予後をみると,症例1は胸,腹腔内大量出血にて死亡,症例2には軽度の下痢を,症例2と4には感染を強く示唆した弛張熱を認め,症例3では胸腔内出血,多発性胃ストレス潰瘍,汎発性血管内凝固症候群,肝腎不全,呼吸不全を併発し死亡した.症例4では永久クランプによると思われる心筋梗塞と心室性期外収縮の頻発をみたが,全症例に脊髄麻痺は認めなかつた.症例4には術前,術中に体性感覚誘発電位を経時的に測定して瘤を完全空置とした.結局4例中2例を失ない,本症に対する外科治療にはまだまだいくつかの大きな障壁の存在することを痛感した.

キーワード
Hardy 手術, 大動脈主要分枝再建, 永久大動脈クランプ, 脊髄麻痺, 体性感覚誘発電位

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