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日外会誌. 86(3): 304-318, 1985


原著

肝内ガス分圧の実験的検討
-吸入酸素濃度変化、および肝流入血遮断の及ぼす影響について-

*) 静岡県立総合病院 外科
**) 東京大学 第2外科
***) 東京大学 胸部外科

伊関 丈治*) , 柴山 和夫**) , 牛山 孝樹**) , 和田 達雄**) , 須藤 憲一***) , 古瀬 彰***)

(昭和58年7月26日受付)

I.内容要旨
吸入酸素濃度変化,あるいは肝流入血遮断に伴う犬の肝内ガス分圧の変動を,医用質量分析計を用い実験的に検討した.吸入酸素濃度70%における肝内pO2の平均±標準偏差は46.0±13.3mmHg,pCO2は27.4±13.0mmHgであつた.酸素濃度を70%の人工呼吸から100%の人工呼吸に変えて10分後の肝内pO2は162%,pCO2は104%に上昇し,酸素濃度21%の自発呼吸に変えて10分後の肝内pO2は74%に低下し,pCO2は160%に上昇した.肝流入血量が一定ならば,肝内pO2は肝流入血中のpO2の変動を反映し,肝内pCO2は肝流入血中のpCO2の変動を鋭敏に反映することが示唆された.
肝動脈を遮断すると肝内pO2は遮断10分後には平均27%に低下し,15分以降は20%前後の値を示した.肝内pCO2は遮断10分後には平均163%に上昇し,さらに漸増して遮断30分後には200%と極大値に達した.肝動脈遮断後の肝内pO2,pCO2の変動を4型にパターン分類した.この変動パターンの多様性は肝動脈の側副血行の発達の状態,および門脈血流の局所のうつ滞の程度を反映しているものと推測された.門脈を遮断すると肝内pO2は遮断10分後には79%に低下し,それ以降は漸増し50分後には遮断前値に回復した.肝内pCO2は遮断10分後には106%と軽度に上昇し,20分以降は漸減し,50分後には遮断前値に回復した.肝動脈と門脈をともに遮断すると肝内pO2は遮断10分後には27%,30分後には10%と急速に低下した.肝内pCO2は遮断10分後には229%,30分後には453%とほぼ直線状に上昇し,それ以降は上昇率が鈍化し60分後には526%とほぼplateauに達した.肝内pO2が0mmHgに近づき,さらに肝内pCO2が直線状に上昇し100mmHgを越える場合,肝内pCO2の上昇率のplateau化は嫌気性代謝の停止すなわち肝細胞の不可逆性変性の進行を表わすことが示唆された.
以上より医用質量分析計による肝内pO2,pCO2の測定は肝内微小循環の状態,さらには嫌気性代謝の程度や肝細胞の変性の有無を知りうる有用な方法と考えられた.

キーワード
肝内ガス分圧, 肝組織ガス分圧, 医用質量分析計, 肝動脈遮断, 門脈遮断

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