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日外会誌. 86(3): 266-279, 1985


原著

両 側 乳 癌

癌研 外科

霞 富士雄

(昭和59年4月11日受付)

I.内容要旨
原発性両側乳癌と少数ではあるが紛らわしい転移性両側乳癌とを鑑別する方法として,著者は組織学的規準を設定し適用してきたが,この方法は術後経過よりみて,従来行われてきた臨床的規準に勝り,かつ迅速に鑑別が可能であることを確認した.組織学的規準とは即ち,第2癌の中にintraductalcancer部分が認められれば第1,第2癌は共に独立した両側乳癌であり,認められなければ第2癌は対側乳癌,まれには重複している他臓器癌からの転移であるとするものである.
1946年より1980年迄に,癌研外科で手術を受けた4,777例の女性乳癌症例中170例が両側とも乳房切断術を受けたが,157例(92.4%,4,777例の3.29%)が原発性,13例(同じく7.6%,0.27%)が転移性と総合判定された.157例のうち両側とも癌研外科で手術を受け,組織学的検討の可能であつた135例では2例を除いてintraductal cancer部分を認めることが出来た.
この様にして判定された157例,場合によつては135例を対照として一側乳癌と対比しながら臨床的及び疫学的事項を検討し,更に,欧米の報告と比較した.結果は欧米の傾向と大差はなかつたが,この中で特に注目されたのは次の2点である.即ち,
1.両側乳癌の予後は予想以上に良好で,
2.第2癌からの予後は対照の一側乳癌より良好であつた.
更に,一側乳癌術後,対側乳癌の発生に晒される患者群patient years at riskを計算して両側乳癌の発生率を出してみると,経年的に一定値をとり,この値はほぼ4‰/yearとなつた.欧米のこの値の報告は5~7‰/yearで,大きな差はない.この事実は,日本女性は乳癌の罹患率は米国のほぼ1/6と低値であるが,一且乳癌に罹患すると,両側性になる確率はもはや決して低くはなく,欧米の確率とほぼ等しくなることを意味する.

キーワード
両側乳癌, 両側乳癌の発生率, 両側乳癌患者の予後

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