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日外会誌. 86(2): 225-232, 1985


原著

Marfan 症候群に伴なう胸腹部大動脈瘤の治療経験
-腹部主要 4 分枝全置換例-

東京大学 第2外科

宮田 哲郎 , 多田 祐輔 , 高木 淳彦 , 秋元 滋夫 , 大島 哲 , 和田 達雄

(昭和59年3月27日受付)

I.内容要旨
Marfan症候群に合併した胸腹部真性大動脈瘤に対し二又人工血管による大動脈置換と腹腔動脈,上腸間膜動脈,両側腎動脈の再建に成功した.患者は53歳女性で,腹部拍動性腫瘤を主訴に来院し,精査の結果第9胸椎から分岐部に至る8×8×27cmの胸腹部真性大動脈瘤,annuloaortic ectasia,IIIa型解離性動脈瘤,両側鎖骨下動脈瘤の診断がついた.手術は第6肋間及び腹部正中で開胸開腹し,人工血管と両側総腸骨動脈を端側吻合し,両側腎動脈を人工血管側枝に端々吻合した.その後あらかじめ作成しておいた左鎖骨下動脈と人工血管左脚間の一時バイパスを通して腎血流を確保しつつ大動脈を遮断して動脈瘤を切開した.腹腔動脈と上腸間膜動脈はボタン状にして人工血管に瘤内より直接縫合し,人工血管と下行大動脈は端々に吻合した.又下行大動脈にみられた解離性病変に対してdacronmeshでwrappingした.この逆行性再建方法により,血流遮断時間は,腹腔動脈と上腸間膜動脈54分,左腎動脈13分,右腎動脈16分といずれも短時間であつた.術後は一過性の肺炎と肝機能障害があつたが,腎機能,腸管機能共に良好で対麻痺もみられなかつた.術後2ヵ月で軽快退院し外来通院していたが,退院後1ヵ月目に自宅で突然死した.剖検ではどの吻合部にも離開や血栓閉塞はなく,結局死因は不明であつた.胸腹部大動脈瘤の手術は主要分枝の再建を必要とする症例が多く難しい手術の一つである.DeBakeyとCrawfordは多数例を報告し,手術方法も工夫しているが,腎機能障害と対麻痺の発生は皆無にできず,結局臓器血流の遮断時間を短かくすることが重要だとしている.今回我々が行なつた逆行性再建方法は,従来の手技に比較し,臓器特に腎臓の血流遮断時間が短かくて済み良い方法であると思われる.

キーワード
胸腹部大動脈瘤, Marfan 症候群


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