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日外会誌. 86(2): 148-159, 1985


原著

肝切除後の全身血行動態および酸素需給動態に関する研究
-術後管理における hyperdynamic state の意義について-

名古屋大学 医学部第2外科(主任:近藤達平教授)

野浪 敏明

(昭和59年4月3日受付)

I.内容要旨
肝硬変併存肝切除後早期には全身循環系が抑制される.この病態は二次的に肝循環障害を招来して肝切除後における肝不全発生の重要な因子になると考えられ,したがつて全身循環の改善は術後管理上重要であるといえる.今回,著者は肝切除後にdobutamineを投与して循環改善を行ない,血行動態および酸素需給動態の面から実験的,臨床的に検討した.
まず雑種成犬を用いて70%肝切除後の血行動態,酸素需給動態を検討した.肝切除後には心係数が減少して分時酸素供給量の減少をきたすため,全身の酸素需要の増加に対して酸素摂取率が高度に上昇するが充分に代償されず,分時酸素摂取量の増加が抑制された.そしてこれらの全身酸素代謝障害のため,血中β-glucuronidase活性が高度に上昇した.これに対し70%肝切除直後からdobutamineを投与すると,心係数の増加に伴つて分時酸素供給量も増加した.そして全身の酸素需要増加に対しては酸素摂取率の上昇で代償され,全身の酸素代謝が改善されるため,血中β-glucuronidase活性の上昇が抑制された.また70%肝切除後にdobutamineを投与すると,肝血流量および肝組織血流量が増加し,KICGが改善した.
次に臨床的には,肝硬変併存肝切除37例を対象とし,dobutamineを3日間投与した15例(DOB群)と投与しない22例(対照群)に分けて検討した.対照群では術後全身循環系が抑制されており,分時酸素供給量が増加しないため,全身の酸素需要増加に対して酸素摂取率が上昇した.一方,DOB群では術後hyperdynamic stateを呈し,酸素供給量が増加して酸素需給関係が正常化した.術後肝不全死例は,対照群の5/22例(22.7%)に比べ,DOB群では1/15例(6.7%)であつた.
以上の成績から,肝硬変併存例の肝切除後にdobutamineを投与して全身血行動態をhyperdynamic stateに維持することは,術後管理上重要な意義をもつと考えられた.

キーワード
肝切除, 肝硬変, hyperdynamic state, 酸素需給動態, dobutamine


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