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日外会誌. 86(2): 121-131, 1985


原著

腫瘍転移に及ぼす全身並びに局所加温の影響に関する実験的研究

鳥取大学 医学部外科学第1教室(主任:古賀成昌教授)

小田 正之

(昭和59年4月5日受付)

I.内容要旨
腫瘍転移に及ぼす温熱の影響を明らかにするために,右下肢にLewis肺癌(LLC)を移植したC57BL/6マウスと,MH-134腹水肝癌(MH-134)を移植したC3H/Heマウスに,温浴を用いた全身加温(TBH)と局所加温(LH)を行い,転移状態を検討した.TBHでは直腸温を40℃,42℃に,LHでは腫瘍内温度を40℃,42℃,43℃に30分間保つた後,LLC移植マウスでは肺転移の程度を,MH-134移植マウスでは各所属リンパ節の転移陽性率を調べた.その結果,42℃,TBHにより肺転移は有意に促進されたが,40℃,TBHやLHによつては促進も抑制もされなかつた.また,42℃,TBHによるLLCの肺転移はTBH終了後24時間以内に起こることが明らかとなつた.この肺転移促進の原因を検討するため,42℃,TBHが腫瘍細胞の血中への流出や肺組織に及ぼす影響を調べた.その結果,血中腫瘍細胞数はTBH終了後12時間目に有意に増加した.また,肺の組織学的変化を継時的に検索した結果,TBH終了後12時間目より肺胞壁の浮腫,肥厚,細胞浸潤や肺胞の閉塞などがみられ,24時間後には腫瘍塞栓も認められた.さらに,非担癌マウスに対するTBH後にLLC細胞を静脈内投与した場合,TBH直後より48時間後まで腫瘍細胞の肺への着床が促進された.これらのことより,42℃,TBHにより起こる腫瘍細胞の血中への流出増加と,肺の組織学的変化が,転移促進の重要な因子と考えられた.
42℃,TBHにcis-diamminedichloroplatinum IIやmitomycin-Cを併用することにより,肺転移,LLC移植癌巣の増殖,いずれも抑制された.
また,MH-134のリンパ節転移は43℃,LHにより抑制されたが,TBHや40℃および42℃のLHによつては促進も抑制もされなかつた.
以上の結果より,TBHでは腫瘍転移,特に血行性転移が惹起される危険性があり,TBHの臨床応用時には,抗癌剤の併用が必要と考えられる.

キーワード
温熱療法(Hyperthermia), 温熱化学療法(Hyperthermochemotherapy), Lewis 肺癌, MH-134腹水肝癌, 転移


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