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日外会誌. 86(1): 62-72, 1985


原著

肝切除術後の全身血行動態に関する臨床的研究
-特に肝硬変併存症例について-

名古屋大学 医学部外科学第2講座(指導:近藤達平教授)

原田 明生

(昭和58年11月2日)

I.内容要旨
肝切除術後の病態を全身血行動態および酸素需給動態の面から解明するために,29例の肝切除症例について術前および術後3日間にわたり循環系各因子を測定し,心係数,左室1回仕事量指数,全身末梢血管抵抗,動静脈血酸素含量較差,分時酸素摂取量を算出して検討し以下の結果を得た.
予後良好例25例のうち肝硬変を併存しない15例では,術後第1病日から有意に心係数の増加,全身末梢血管抵抗の低下がみられhyperdynamic stateとなつた.一方肝硬変を併存した10例は第1病日の心係数の増加が軽度であり,左室1回仕事量指数は減少した.さらに肝硬変併存9例について残存肝機能量の指標として残存肝ICG Rmaxを算出し,比較的高値であつた4例と,より低値であつた5例に分けて比較検討すると,Rmax低値例の第1病日の心係数の増加はRmax高値例に比べて軽度であつた.すなわち肝切除術後には,残存肝機能量のより低下した肝硬変併存例および残存肝ICGRmax低値例で第1病日の心係数の増加がより軽度であつた.このことは残存肝の機能量低下により心機能が抑制されたことを示唆している.
これら予後良好例はいずれも第1病日に分時酸素摂取量が増大したが,一方術後早期より肝不全に陥つた4例は第1病日に心係数,動静脈血酸素含量較差がほとんど変動せず,分時酸素摂取量はやや減少した.さらに第2病日には動静脈血酸素含量較差および分時酸素摂取量が著明に減少した.すなわち術後早期からの酸素需給障害が肝不全例に特徴的であつた.
また切除率,術中出血量,手術時間などの手術侵襲が大きい2区域以上切除例では,心係数の増加,分時酸素摂取量の増大が第3病日まで持続し,より大きな手術侵襲による影響と考えられた.

キーワード
肝切除術, 全身血行動態, 酸素需給動態, 残存肝 ICG Rmax, 肝切除後肝不全

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