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日外会誌. 86(1): 32-43, 1985


原著

甲状腺癌の予後を左右する因子の追求と治療法の選択

愛媛大学 医学部第2外科教室(指導:木村  茂教授)

宝道 勝

(昭和58年11月28日受付)

I.内容要旨
甲状腺癌の適切な治療法を求めるために,甲状腺悪性腫瘍2,244例の長期追跡結果を分析し,予後を左右する因子を探り,主に乳頭癌について治療法の検討を行つた.
予後を左右する最大の因子は病理組織型で,乳頭癌,濾胞癌の25年相対生存率は各々92.8%,98.7%と良かつたが,未分化癌の予後は悪く4年累積生存率は18.7%であつた.また髄様癌の10年累積生存率は92.6%と分化癌と同じ程度であり,悪性リンパ腫などその他の悪性腫瘍は分化癌と未分化癌との中間程度であつた.その他予後に影響を及ぼす因子は,性別,年齢,腫瘍の最大径,腫瘍の浸潤範囲および頚部リンパ節への転移率であつた.
乳頭癌治癒手術例は1,701例,非治癒手術例は65例であり,20年累積生存率は各々 75.5%,28.5%で有意の差がみられ,治癒手術を行う様努めるべきである.
乳頭癌治癒手術例を予後に影響を及ぼす因子の組み合わせによりlow-risk group (L群),intermediate・risk group(I群),high-risk group(H群)に分けた.L群は30歳未満の男性または50歳未満の女性で,腫瘍の最大径が20mm未満で腫瘍が一葉に限局し、リンパ節転移率が40%未満の例と区分することが出来た.H群は30歳以上の男性または50歳以上の女性で,腫瘍の最大径が30mm以上か腫瘍が両葉に及び,リンパ節転移率が40%以上の例と区分することが出来,I群はL群,H群以外の例とした.L群,I群,H群の9年再発率は各々0%,9.2%,43.5%で,10年累積生存率は各々98.5%,91.9%,52.1%と著明な差がみられた.また再発部位を検討した結果,L群には甲状腺部分切除または葉切除と,気管前および腫瘍側気管旁リンパ節の郭清,I群には甲状腺葉切除と腫瘍側頚部リンパ節郭清,H群には甲状腺亜全摘と両側頚部リンパ節の郭清が適切な手術術式であろうと結論づけられた.

キーワード
甲状腺癌, 甲状腺乳頭癌, 頚部リンパ節郭清, 再発部位, 甲状腺癌根治手術


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