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日外会誌. 85(12): 1545-1557, 1984


原著

ATP-MgCl2による硬変肝に対する肝切除後肝細胞内 energy crisis の治療

千葉大学 医学部第2外科(主任:佐藤 博教授)

大竹 喜雄

(昭和59年2月18日受付)

I.内容要旨
<目的> :肝切除後の肝細胞内energy metabolismが失調して発生するenergy crisisは,術後急性肝不全発生の大きな要因である.特に60〜80%に肝硬変を合併している本邦の肝癌症例に対する肝切除においては,肝細胞内energy crisisは容易に発生しやすく,その臨床的意義は重大である.本研究は,かかるenergy crisisに対するenergy supportとして,直接のenergy源であるATPをATP-MgCl2の型で用いて,肝細胞内energy metabolismに与える影響について検討し, さらに臨床応用することを目的とした.また,肝は生体の代謝中枢である他に自己防禦機構の中心である細網内皮系(RES)の80%以上を占めている事に鑑み,肝切除後ATP-MgCl2投与がRES機能に及ぼす効果についても検討した.<方法>基礎的研究: CCl4硬変肝ラットを作製し, Higginsらの方法による68%肝切除を行ない,生食投与群とATP-MgCl2投与群(ATP-MgCl2 12. 4μmole)に分け肝切除後24時間における肝細胞内energy charge(以下EC),arterial ketone body ratio(以下AKBR),RES機能及び肝切除後1週間の生存率について検討した.臨床例:硬変合併肝癌切除20例に対し,術後24時間以内にATP-MgCl2(30〜50μmole/kg)を投与し, AKBR,RES機能及び臨床経過について検討した.<結果>基礎的研究:肝切除後生食投与群に比し, ATP-MgCl2投与群ではEC,AKBRともに有意に高値でありATP-MgCl2が肝切除後の肝細胞内energy metabolismを改善していることを示唆している. また,生存率及びRES機能の有意の改善も認めた.臨床例: ATP-MgCl2投与によりAKBR及びRES機能の改善を認め,臨床経過もATP-MgCl2非投与群に比し改善された.<結語>以上の実験及び臨床例より,硬変肝における肝切除後の急性肝不全の大きな要因である肝細胞内energy crisis及びRES機能低下に対する一治療法としてATP-MgCl2は有効であるとの結論を得た.

キーワード
ATP-MgCl2, 肝細胞内 energy charge, arterial ketone body ratio, 細網内皮系, CCl4

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