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日外会誌. 85(11): 1454-1463, 1984


原著

胃癌組織におけるfibronectinおよび関連血漿蛋白の分布
-胃癌間質線維化形成に関する考察

東京大学 医学部第1外科(指導:森岡恭彦教授)

前田 守

(昭和59年1月26日受付)

I.内容要旨
胃癌の間質における線維化の成立機序などを明らかにする目的で,胃癌47例,胃潰瘍5例を対象とし,fibronectin(FN)およびFNと関連する血漿蛋白fibrinogen(Fbg),α2-plasmin inhibitor (α2PI),凝血第XIII因子(XIIIA) の分布を間接蛍光抗体法によって検索し次の結果を得た.
1.分化型胃癌の基底膜部にはFNは検出されなかった.
また未分化型胃癌においても基底膜部に明らかにFNが存在する所見は得られなかった.
2.胃癌の間質にはFNとFbgが類似の形態で豊富に分布していたがα2PIは検出されず,胃癌の間質にはα2PIは存在しないか,あつても量的にきわめて少いことが示唆された.すなわち間質ではFNとFbgが結合して存在する可能性は高いが,これは血栓などで見られるようなα2PIの関与した架橋化fibrinではない可能性が強い.
3.胃癌の間質では自家蛍光を発するコラーゲン線維を囲むようにFN,Fbgが分布した.
4.上に述べた胃癌間質の所見は胃癌の組織型と無関係にどの型の病巣にも認められ,また創傷治療の例として検索した胃潰瘍症例とも同様の所見であった.
以上の結果より胃癌の間質の線維化の機序は,大部分の胃癌で同じであり,さらに胃潰瘍その他に認められる非特異的な創傷治癒反応における線維化の機序とも同様であることが示唆された.すなわち胃癌組織における線維化の多寡は,癌細胞自体の侵襲の強さを始めとする癌細胞側の因子と,創傷治癒に関与する宿主側の局所的・全身的因子の統合によつて規定されるものと考えられる.

キーワード
fibronectin, fibrinogen, α2-plasmin inhibitor, scirrhus, 創傷治癒


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