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日外会誌. 85(11): 1440-1453, 1984


原著

組織培養によるヒト食道癌の研究
-その多様性について-

東北大学 医学部第2外科(主任:葛西森夫教授)

赤石 隆

(昭和58年12月16日受付)

I.内容要旨
培養の報告の極めて少ないヒト食道癌について7例の培養,株化に成功しその性質を検討した.
培養法は次の特質を有する,1)Sodium Piperacillin 100μg/ml,gentamycin 5μg/ml,amphotericin B 5μg/mlの使用により細菌ならびに真菌を除去し得,これにより消化管内腔から原発巣を採取し培養し得るようになった.2)通常癌細胞を駆遂してゆく間質由来の細胞についてはトリプシンに対して食道癌細胞より感受性が高いことを利用して除去することができた.しかし以上のようにして得た癌細胞も増殖を継続しない場合が多く培養条件に未だ改善の余地を残した.
扁平上皮癌の特徴である角化傾向の発現については細胞毎に程度ならびに質の違いが大きく,かつin vitroの癌細胞とその原発巣との比較において良い対応を示した.しかしTE-3細胞はin vitroで角化傾向を示さないがヌードマウスに移植すると著明な角化を示し,環境因子の何らかの相異が癌細胞の正常方向への分化を制禦していると推測された.
癌細胞の培地内アミノ酸消費様式はすべての細胞で同様に変動するarginine,glycine,並びに尿素サイクルを構成するalanine,ornithine,citrullineなどのものがあり,また細胞毎にその消費様式に違いを示すものとしてserine,aspartic acid,側鎖型アミノ酸があった.特にserineを消費する細胞はaspartic acidを消費せず,後者を消費する細胞は前者を消費しないという相補的関係がみられた.
Adriamycin,Bleomycin,Mitomycin C,5-Flnorouracilの各種制癌剤に対する感受性については細胞間で差が大きく,異なる薬剤に対しては全く異なる致死効果を示した.また基準の細胞との相対比較は制癌剤の効果の定量的予測に寄与すると思われた.
以上よりヒト食道癌と総称される癌はかなり性質の多様な集団であり,治療に当つては各個症例についてその性質を検討し適切な手段を構じる必要があると思われる.

キーワード
ヒト食道癌, 組織培養, 角化傾向, アミノ酸消費, 制癌剤感受性

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