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日外会誌. 85(10): 1359-1369, 1984


原著

大腸癌術後血行性転移再発に関する臨床的・病理学的研究
-特にその予知と抑制に関する検討-

神戸大学 医学部第1外科

多淵 芳樹 , 中江 史朗 , 今西 築 , 中村 毅 , 川崎 浩史 , 大山 正 , 村山 良雄 , 瀧口 安彦 , 斉藤 洋一

(昭和58年12月12日受付)

I.内容要旨
大腸癌の治療成績向上を目的として,大腸癌切除325例を対象に術後血行性転移再発(以下再発と略)について臨床病理学的な検討を行い,次の通りの結果と結論をえた.
1) 再発は34例10.5%に確認され,再発臓器は肝25例・肺5例・骨2例・脳および皮膚各1例であり,このうち血行性臓器単独再発例が28例82.4%を占めていた. 2) 癌腫の病理学的所見と再発率との関係では, 再発率と肉眼分類・大きさおよび組織型との間に関連はみられず,深達度・リンパ節転移およびリンパ管侵襲の有無・stage分類並びにDukes分類との間に関連はみられたが,明確な相関は認められなかった.静脈侵襲は104例32.0%にみられ,再発率はV0 5.0%・v1 10.0%・v2 26. 7%・v3 36.8%・sm-pm v(+) 8.7%・ss-extra v(+) 38.9%であり,v0とv(+)・V1とV2-3並びにsm-pm v(+) とss-extra v(+) との間の再発率に有意な差 (p=0.05) が認められた.また再発率はn0 v0 3.1%・n(+) v0・7.7% n0 v(+) 18.4%・n(+) v(+) 23.5%であり,n0 v0 とn0 v(+) およびn(+)V0 とn(+) v(+)との間の再発率に有意な差(p<0.01)がみられた.3) 術後再発期間 (x月) と再発後の生存期間 (y月) との間にy=0.468x+5.558 (r=0.765, p<0.05)の相関が認められた. 4) MF-MF'療法群の1年(p<0.1) ・2年 (p<0.01) 累積生存率は手術単独群とF-F'療法群より良好であったが,後2治療群間の生存率に有意な差はみられなかった.肝再発例に対する術中MMC門脈内投与を含むMMC投与群はMMC非投与群より1年・2年累積生存率は有意に (p<0.01) 良好であつた.しかし,3年から5年の生存率並びに生存率曲線のパターン解析ではいずれの治療群間にも有意な差はみられなかった.
以上の結果は,大腸癌の術後長期経過後再発した症例程再発後の生存期間が長いことを示すと同時に静脈侵襲程度とその位置が血行性再発の最も重要な指標であること並びに臨床的にはV2-3・ss-extra v(+)およびn(+) v(+) 症例は血行性再発のhigh risk症例として対処する必要があることを示していると考えられる.術前または術中に存在していた微小転移や移植に基因すると思われる血行性再発はMF-MF'療法によつて,特に肝再発は門脈内投与を含むMMC療法によって,部分的に一定期間抑制され得ることを示唆していると考えられる.

キーワード
大腸癌, 術後血行性再発, 静脈侵襲, 再発危険群, 補助化学療法

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