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日外会誌. 85(10): 1349-1358, 1984


原著

全結腸切除,直腸粘膜切除,回腸肛門吻合術後の病態生理
-回腸肛門吻合部回腸の水分電解質吸収能の変動について-

東京医科歯科大学 第2外科(主任:三島好雄教授)

沢井 繁男

(昭和58年12月23日受付)

I.内容要旨
教室では大腸腺腫症および潰瘍性大腸炎に対し,肛門機能温存術式として全結腸切除,直腸粘膜切除兼回腸肛門吻合術を開発してきた.本術式ではI期手術として上述のほかにループ型回腸人工肛門造設術を加え,II期手術としてループ型回腸人工肛門閉鎖術を行う.本術式を行った大腸腺腫症12例,潰癌性大腸炎4例においてdialysis methodにより大腸欠損状態における回腸肛門吻合部回腸の水分電解質吸収能の変化を測定し,便量,便内容の変化と比較し,小腸における大腸機能の代償化(大腸化)について検討し,次の結果を得た.
① dialysis methodの有用性を動物実験(ラット30匹,雑種成犬10頭)にて確認し,これを臨床に用い,成人直腸でも水分吸収能が認められた.
② 回腸肛門吻合部回腸の水分吸収量はI期手術直後は平均0.389gであったが,II期手術後腸内容の通過が始まると経時的に増加して,1年後には平均0.666g,2年後には平均0.702gとなり,I期手術直後の約l.8倍の増加をみた.
③ 便量はI期手術後の回腸人工肛門より平均852g/日排泄されていたが,II期手術後には減少し,1年後では約316g/日となり,同時に便の性状も水様便から有形便へと変化した.この便量の減少と,回腸肛門吻合部回腸における水分吸収量の増加には相関関係がみられた (p<0.001).これは回腸による便の有形化を示し,回腸の大腸機能の代償化と考えられた.
④ 電解質吸収能はII期手術後にはI期手術直後より増加したが,経時的変化は少なく,また吸収パターンは大腸の吸収パターンを示さなかった.
⑤ 回腸肛門吻合部回腸はII期手術直前には水分吸収量が平均0.25gと減少したが,これは空置状態に置かれたときの廃用萎縮によるものと思われた.

キーワード
全結腸切除, 直膜粘膜切除兼回腸肛門吻合術, dialysis method, 回腸の水分, 電解質の吸収能, 小腸の大腸化


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