[書誌情報] [全文PDF] (4382KB) [会員限定・要二段階認証][検索結果へ戻る]

日外会誌. 85(10): 1332-1343, 1984


原著

閉塞性黄疸の膵腸吻合部創傷治癒および膵内外分泌機能におよぼす影響に関する実験的ならびに臨床的研究

慶応義塾大学 医学部外科学教室(指導:阿部令彦教授)

高橋 伸

(昭和58年12月13日受付)

I.内容要旨
閉塞性黄疸が膵腸吻合部創傷治癒および膵内外分泌機能におよぼす影響を検討するため犬を用いて以下の実験を行なった.
正常膵犬,黄疸負荷正常膵犬(総胆管結紮3週),黄疸負荷硬変膵犬(総胆管,膵管同時結紮3週),硬変膵犬(膵管結紮3週)の4群を作り,初回負荷手術後3週で膵腸吻合術施行,黄疸負荷群に対しては減黄術を同時に施行した.
膵腸吻合術施行後,1,3,5,7,14,30日で屠殺し,膵腸吻合部創傷治癒過程を微細血管像,病理組織像,膵hydroxyproline量測定,耐圧試験,縫合不全発生率で検討した.また閉塞性黄疸が膵内外分泌機能におよぼす影響を検討するために,正常膵犬,黄胆負荷正常膵犬に対して, IV-GTT,P-Sテストを行なった.
その結果,黄疸負荷膵は正常膵と比較して,膵腸吻合術後1,3,5日の吻合初期に広汎な出血壊死組織を中心とした急性炎症が強く,また吻合部創傷治癒機転の始まりも遅く,閉塞性黄疸は膵腸吻合部創傷治癒を遷延させた.
黄疸負荷群を血清総ビリルビン値 (以下TB) 5mg/dlで2分し,軽度黄疸群 (1<TB<5平均TB3.2mg/dl) と高度黄疸群 (5<TB<9.3平均TB7.6mg/dl) に分けて検討したところ,吻合部耐圧試験,縫合不全発生率において有意差 (p<0.01) をもつて軽度黄疸群の成績が良好であった.臨床においても以上の結果に基づき, TB5mg/dl以下で施行した膵頭十二指腸切除術90例の膵腸吻合部縫合不全発生率は5.6% (5/90例) と満足すべき成績であった.よってTB5mg/dlが減黄の指標となりうる値であり,TB5mg/dl以下で根治手術をすべきであると考える.
閉塞性黄疸が膵内分泌機能に与える影響を調べるために行なったIV-GTTの結果から,黄疸負荷膵は正常膵に比べて,90,120分の血糖値が有意 (p<0.01) に高いが,インシュリン値には差がなく,いわゆる肝性糖尿病類以の耐糖能異常を示した.膵外分泌機能に関しては,P-Sテストの結果,黄疸負荷膵,正常膵の両群に有意差はなかった.

キーワード
閉塞性黄疸, 膵腸吻合, 創傷治癒, hydroxyproline, 膵内外分泌機能

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。