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日外会誌. 85(10): 1261-1273, 1984


原著

甲状腺腺癌における核DNA量と悪性度についての研究

横浜市立大学 第1外科(指導:松本昭彦教授)

吉田 明

(昭和58年11月28日受付)

I.内容要旨
甲状腺腺癌の生物学的性状を核DNA量の面より検討することを目的として,Flow CytometryおよびMicrofluorometryにて腺癌を中心とした甲状腺腫瘍性疾患の相対的核DNA量を測定した.
Flow Cytometryでは腺腫14例,腺腫様甲状腺腫7例,腺癌20例を対象とし,Microfluorometryでは様々な経過を辿つた腺癌25例および未分化癌6例を対象とした.得られたDNA histogramより各組織型による差異,腺癌の進展経過に伴う変化などを検討し以下の成績を得た.
1. 腺腫,腺腫様甲状腺腫および腺癌はいずれもdiploidまたはnear diploidであり,DNA histogram上Mode値による差は明らかではなかった.しかし増殖相に相当する細胞は,腺癌で腺腫,腺腫様甲状腺腫より明らかに増加しており,その平均値には有意差が認められた.
2. 未分化癌は分布幅の広いDNA histogramを呈し,ほとんどがaneuploidであった.また高倍体域における細胞は腺癌よりもさらに増加しており,その差は有意であった.
3. 腺癌のリンパ節転移巣では,DNA histogram上原発巣と明らかな差を認めなかつた.気管内浸潤巣では高倍体域の細胞が増加しており,未分化癌に類似したDNA histogramを示す例が存在した.また再発巣においては初回手術巣と異なるDNA histogramを呈するものが認められた.
4. 腺癌の再発例では,術後早期に再発を認めたものほど手術時のDNA histogram上高倍体域の細胞が増加しており,3C以上の細胞出現率と再発までの期間には負の相関が認められた.
以上より核DNA量は,甲状腺腫瘍の悪性度を反映する客観的な指標となり得ると考えられ,甲状腺腺癌が進展経過に伴いその生物学的性状を変化させることが示唆された.

キーワード
甲状腺腺癌, 甲状腺腫瘍, 核DNA量, Flow Cytometry, Microfluorometry

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