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日外会誌. 85(8): 739-748, 1984


原著

広範囲熱傷164症例の臨床的検討
-救命率向上の因子について-

日本医科大学 救急医学教室

矢埜 正実 , 渡辺 千冬 , 益子 邦洋 , 黒川 顕 , 山本 保博 , 辺見 弘 , 大塚 敏文

(昭和58年9月21日受付)

I.内容要旨
1976年から1981年の6年間に広範囲熱傷患者164例を治療した.この6年を1976~1978年の83例を前期,1979~1981年の81例を後期と各々3年間に分けて死亡率を比較した.164例の平均年齢は31.2±23.6歳 (mean±SD),平均熱傷面積54.3±22.5% BSA,Burn Index (deep burn+superficial burn/2+deep dermal burn/2)は40.2±22.6である. 前期は平均年齢28.9歳,平均熱傷面積52.6% BSA,BI38.7に対して,後期は33.7歳,56.0% BSA,41.8と後期がやや高いものの統計学的には差がない. 164例の死亡率は50.6%であり,前期死亡率55.4%,後期45.7%である.
fatal burnに近い70% BSA以上および60歳以上の症例を除くと,前期の死亡率33.3% (19/57),後期は21.3% (10/47)と低い.さらに治療法次第で予後が大きく左右される50~70% BSA,60歳以下に限定すると,前期の20例中13例死亡 (65.0%)に対して,後期は19例中7例死亡(33.3%)と後期が少ない.かように死亡率が改善された原因について検討した. 初期輸液療法は両者とも,Parkland(Baxter)公式の約1.5倍に達し,後期がやや多かった.特に受傷後24時間のコロイド投与は,前期平均0.26ml/kg/% BSAに対し,後期は0.57ml/kg/% BSAと後期が多い (p<0.01).
ほかに,前後期の治療上の相違点は,後期におけるair fluidized bedの使用と,局所療法剤であり,軟膏は前期のsilver sulfadiazine creamから,後期ではsilver sulfadiazine-cerium nitrate creamになった.植皮術に関しては,前期が受傷2~3週後の待期手術から,後期は受傷3~7日後に初回手術を行う早期手術になった.
栄養について,前期は経口摂取に経管および経静脈的栄養を追加していた. 一方後期は中心静脈栄養を基本にして受傷7日前後にはCurreriの公式に相当するカロリーが投与されている.抗生物質は,後期に第2,第3世代のセフェム系が投与されている.このような各種療法の改良により,予後は改善した.

キーワード
extensive burn, mortality, fluid resuscitation, air fluidized bed, early skin graft


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