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日外会誌. 85(7): 675-685, 1984


原著

胃癌における血液凝固線溶系の異常に関する研究

東京大学 医学部第2外科学教室(指導:和田達雄教授)

山村 卓也

(昭和58年9月6日受付)

I.内容要旨
胃癌切除術施行症例95例を対象として,胃癌の進行に伴い血液凝固線溶系がどのように変化し,さらに癌組織の組織学的形態の違いによりその変化がどのように修飾されるか,また手術によりどのように変動するのかを検討した.
胃癌の進行度をstage分類で評価すると,stageが高度になるほど血小板数,血小板凝集能,フィブリノゲン等の凝固系因子および線溶系ではFDPが高値を示した.特にstage IVではα2Mも著しい低値を示し,血液凝固線溶系の異常が著明であった.組織学的形態の違いを組織分類および間質結合織の量で検討すると,組織分類の違いによつてstageの進行に伴う血液凝固線溶系の変化は多少異なつているが,高度のstageではどの組織分類でもその変化は類似していることから,血液凝固線溶系の異常が組織分類の違いによつて大きく異なることはないと思われた.間質結合織の量の違いでは,髄様型では高度のstageで血液凝固線溶系の異常が認められるが,硬性型では血小板数の増加がみられるだけで,血小板凝集能,フィブリノゲン,FDP等の変化はみられなかった.また凝固能亢進に伴う癌組織周囲のフィブリン沈着は髄様型にのみみられ,硬性型では認められなかった.一方,癌の進行に伴つて生ずる血液凝固線溶系の異常状態は癌組織を摘除することにより正常化するが,術後にも明らかに癌が残存した場合にはその異常は増強し,潜在的DICの病態を示すものと思われた.
以上,胃癌の進行に伴う血液凝固線溶系の変化は癌組織の組織学的形態の違いにより異なり,髄様型ではその変化は著明であるが,硬性型では極めて軽度であった.また血液凝固線溶系の異常は癌組織が完全に摘除されたかあるいは癌組織が残存したかによつて術後に著しい病態の違いを示すことが明らかとなった.

キーワード
血液凝固線溶系, 播種性血管内凝固, 胃癌, 間質結合織の量, 血液凝固線溶系一術前術後の変動


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