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日外会誌. 85(6): 573-579, 1984


原著

血行再建部閉塞による患肢の悪化

名古屋大学 医学部分院外科
*) 名古屋大学 医療短大部

松原 純一 , 太田 敬 , 塩野谷 恵彦 , 伴 一郎*)

(昭和58年6月17日受付)

I.内容要旨
四肢末梢動脈の慢性閉塞症に対して血行再建術を施行後,血行再建部が閉塞すると,患肢に如何なる影響が及ぶか,について自験例をもとに検討した.症例は過去8年間に名大分院外科で行われた血行再建術中,腎動脈以下の下肢動脈慢性閉塞性疾患282肢である.術後追跡率は93.3%.内訳はASO 219肢,TAO 63肢で,手術の適応は間歇性跛行が57.1%で,救肢は42.9%であった.手術内容はバイパス247肢,血栓内膜除去術17肢,ドッター法18肢であった.主な手術の術後累積開存率は,腹部大動脈・腸骨動脈領域では3~5年で約80%,F-Pproxバイパスの7年開存率は約60%,F-Pdistバイパスの3年開存率は40%弱,F-Cバイパスの7年開存率も40%弱であった.術後閉塞率は全体で31.2%であり,跛行群では24.0%,救肢群では40.7%で,救肢群の方が,有意に閉塞率が高かった.血行再建部閉塞による患肢の悪化率は,跛行群で30.6%,救肢群では45.7%で,切断率は夫々2.8%と26.1%であった.更に,血行再建術終了直後に閉塞した症例では,悪化率が跛行群で44.4%,救肢群で27.8%であり,特に跛行群の悪化率が高かった事は重大な問題である.閉密原因の第1は末梢run offの不良で,第2はグラフトに用いた自家静脈が不良である事に基因していた.
結論として,natural historyの良好である跛行肢に血行再建術を行い悪化させる事は許されない事で,跛行肢の手術適応は患者の実生活での必要度を第1とし,患肢末梢のrun offとグラフトの材質を十分に考慮しなければならない.又,跛行肢で鼡径靱帯以下にバイパスを行うには自家静脈を第ー選択とし,人工血管は使わない.自家静脈が不適当と思われる場合には保存的に治療する事もやむをえない.救肢を目的とする場合には人工血管の使用も許されるが,PTFEよりもダクロンの方が成績が良い様である.

キーワード
血行再建部閉塞, 患肢の悪化, 跛行肢, limb salvage

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