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日外会誌. 85(6): 541-547, 1984


原著

イヌ心移植の実験的研究
-低流量逆灌流による摘出心の36時間保存について-

国立循環器病センター研究所 
*)  国立循環器病センター病理

鈴木 盛一 , 笹木 秀幹 , 松尾 好祥 , 富田 悦朗 , 佐田 正晴 , 水落 泉 , 新谷 聡 , 高市 成子*) , 由谷 親夫*) , 雨宮 浩

(昭和58年8月2日受付)

I.内容要旨
酸素飽和したfluorocarbon(FC)とCollins液を用いたイヌ摘出心の4℃単純冷却法による24時間までの保存(n=8)で,血流再開後全例に再拍動が得られた. しかし,この24時間保存心は,組織学的にも,心機能評価においても著しい変化が認められ,さらに保存方法の改良が望まれた.長時間の単純保存で最大の問題はcold ischemic time(CIT)におけるanoxiaと考えられる.そこで,それによる障害を最少限に抑えることを目的とし,摘出心のcoronary sinusより少量の保存液(10%FC加Collins液)を灌流させる低流量逆灌流保存法を考案した.この方法では,灌流量が極めて少い(30ml/hr,60ml/hr)ことから,液を閉鎖循環させる必要はなく,したがつて,灌流液の条件を最初に設定しておけば,その後の調整を要しない.それだけ装置も簡単となり,持ち運びにも便利である. この方法で24時間保存心を単純保存例と比較するとともに,36時間保存心(n=5)の組織像,心機能を検討した.心機能の評価は,左室の収縮期末期圧一容積関係(Emax)と拡張期末期圧特性を測定することにより行った.
24時間,36時間の逆灌流保存心の組織像は全く正常であり,24時間単純保存で認められたような心筋細胞の変性所見はみられなかった.24時間保存心の心機能の比較では,単純保存例では,Emaxの著明な低下と拡張期末期圧の上昇が認められたのに対し,逆灌流保存例では,それらは良好に保たれ,controlと全く同じ傾向を示していた. 36時間逆灌流保存例では,Emaxの値は良好であったが,拡張期末期圧の上昇がみられた.しかし,これはisoproterenolの投与で改善され,また組織学的にも正常なことから,充分reversibleな心機能の変化と考えられた

キーワード
低流量逆灌流心保存, イヌ心移植, Emax, fluorocarbon, ATP-MgCl2


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