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日外会誌. 85(5): 482-491, 1984


原著

胆管粘膜化生の臨床病理学的検討
-とくに胆管癌との関連について-

久留米大学 医学部第2外科(主任:古賀道弘)

津留 昭雄

(昭和58年7月19日受付)

I.内容要旨
手術によつて得られた胆管癌56例,肝胆道疾患以外の原因で剖検された36例,胆管癌以外の原因で閉塞性黄疸を呈した18例を対象に,胆管粘膜化生の発生状況を調べ,胆管癌の背景病変としての意義について検討した.さらに胆管癌々巣部で認められた悪性杯細胞の有無を指標として,悪性杯細胞(+)をIntestinal type (I-type),悪性杯細胞(一)をnon-Intestinal type (non-I-type) とし,胆管癌56例を2群に分類し臨床病理学的検討を行い,以下の結果を得た.剖検36例では24例(66.7%)に幽門腺化生を認めたが,杯細胞は全く認めなかつた.閉塞性黄疸18例では幽門腺化生を16例(88.9%),杯細胞を2例(11.1%),腸クローム親和(E-C)細胞を1例(5.5%)認めたが,腸型吸収上皮細胞,Paneth細胞は全く認めなかった.胆管癌56例の非癌部粘膜では,幽門腺化生を,46例(82.1%),杯細胞を14例(25.0%),E-C細胞を2例(3.6%),腸型吸収上皮細胞を5例(8.9%)認めたが,Paneth細胞は全く認めなかった.癌巣部では,悪性杯細胞を31例(55.4%),悪性E-C細胞を8例(14.3%),悪性腸型吸収上皮細胞を18例(31.2%)認めたが,悪性Paneth細胞は全く認めなかった.杯細胞は閉塞性黄疸18例でも僅かに検出されたが,胆管癌症例非癌部粘膜では若干頻度が高く,癌部ではさらに高頻度に検出された.担癌胆管非癌部粘膜で杯細胞の検出された症例では,全例癌巣部でも悪性杯細胞を認めた.このことより正常胆管粘膜→腸上皮化生→I-type胆管癌の発生が示唆された.さらにI-type胆管癌はnon-I-type胆管癌に比べ,高齢者に多く,部位では総胆管下部に頻度が高く,肉眼型は隆起傾向を示し,組織型では高分化腺癌に多い傾向にあった.一方,中下部non-I-type胆管癌は,全例膵浸潤を認めI-type胆管癌と生物学的性状は異なっていた.以上の結果より,胆管癌にも腸型胆管癌が存在し,胆管粘膜の腸上皮化生が胆管癌の発生母地として大きな意義をもつことを強調した.

キーワード
胆管癌, 腸上皮化生, 腸クローム親和(E-C)細胞, 腸型胆管癌, 胆管癌の膵浸潤

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