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日外会誌. 85(2): 160-174, 1984


原著

肝切除術前後の心肺動態に関する臨床的研究

慶応義塾大学 医学部外科学教室(指導:阿部令彦教授)

島津 元秀

(昭和58年2月12日受付)

I.内容要旨
一区域以上の肝切除34例に対し,Swan-Ganz catheterを用いて手術前後の呼吸循環動態の変動を検索し,肝硬変併存例や黄疸合併例の特異性および手術侵襲との関連について臨床的に検討し,次の結果を得た.
1) 肝硬変や黄疸を伴わない症例の広範囲肝切除においては,一般に術直後から1病日にかけて心係数が減少し,全末梢血管抵抗が増大する傾向があり,2~4病日では心係数,肺動脈圧の増加傾向および全末梢血管抵抗の平常化が見られた.
2) 肝硬変併存例は,非肝硬変例に比べ,術前後を通じて心係数が大きく全末梢血管抵抗の小さいhyperdynamicな循環動態を呈した.予後不良例では,この傾向は一層顕著であり,動静脈血酸素含量較差も,より低値を示した.また肺動脈圧,肺動脈楔入圧も高い傾向があり,過剰輸液によつて心肺不全に陥り易い状態にあると考えられた.
3) 軽度黄疸例は,無黄疸例に比べ,術後,全末梢血管抵抗の減少が見られたが,その他の循環動態の指標には差がなかった.
4) 肝硬変例9例中3例にARDSが発症した.黄疸例にARDSの発症はなかつたが,無黄疸例に比ベ術前からPaO2の低下,AaDO2の増大が著しい.
5) 開胸例と非開胸例の間に,術後の血液ガスおよび肺循環動態に関して差はなかつた.
6) 肝切除量の大きい症例では,術直後,循環血液量の減少を示唆する症例が多かつたが,2病日以後は回復傾向が見られた.
7) 出血量の多い症例では,2病日以後は術前に比べhyperdynamicな循環動態となる傾向があった.
以上,Swan-Ganz catheterを用いることにより,手術侵襲の大きい肝切除後の呼吸循環動態を適確に把握できた.さらに肝硬変併存例では,心肺動態の評価が肝切除適応決定上,一つの基準になりうると考えられた.

キーワード
肝切除, 心肺動態, スワンガンツカテーテル, 肝硬変, 黄疸

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