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日外会誌. 85(2): 143-152, 1984


原著

動脈の分岐走行変異に対応した胃癌根治手術の検討

京都第二赤十字病院 外科

沢井 清司 , 東 健 , 松田 孝一 , 泉 浩 , 丹羽 誠 , 加藤 元一 , 竹中 温 , 徳田 一

(昭和58年4月13日受付)

I.内容要旨
296例の胃癌症例に対して腹腔動脈造影,左胃動脈造影,総肝動脈造影,および上腸間膜動脈造影の4種類の血管撮影を行った.そして,得られたX線写真について各動脈の分岐走行を詳細に観察し,動脈の分岐走行変異に対応した胃癌根治手術のあり方を検討して以下の結果を得た.
(1) 左胃動脈を分岐する動脈は,腹腔動脈94.9%,脾動脈2.7%,腹部大動脈2.1%,総肝動脈0.3%であった.これらの変異が術前の血管造影で判明している場合には,まず左胃動脈起始部周囲リンパ節の郭清を行い,その後に左胃動脈を根部で切離すれば,左胃動脈幹リンパ節(No. ⑦)の郭清が確実なものになる.この事は左胃動脈が腹部大動脈から分岐している症例において特に重要である.
(2) 右胃動脈を分岐する動脈は,固有肝動脈46.9%,左・中・右の各肝動脈分枝26.4%,総肝動脈または胃十二指腸動脈18.6%,その他5.4%,不明2.7%であった.これらの幽門上リンパ節(No. ⑤)の転移率を比較すると,各肝動脈分枝から分岐する症例の転移率が最も高く,20.0%であった.
(3) 脾動脈の起始部は腹腔動脈97.3%,腹部大動脈2.0%,上腸間膜動脈0.7%であった.
(4) 左胃動脈から肝動脈が分岐する症例は53例(17.9%)であった.これらのNo. ⑦転移率は19.0%と高率であった.従って,根治性を得るためには,この変異がある場合にも左胃動脈を根部で切離すべきである.
(5) しかし,左胃動脈から肝動脈が分岐する症例(53例)のうち20.8%にあたる11例では,肝の2区域以上が左胃動脈から分岐する変異肝動脈によつて血行を得ていた.
(6) 上腸間膜動脈から肝動脈が分岐する症例は41例(13.9%)であった.
(7) 上記以外にも,腹腔・上腸間膜動脈共通幹や上腸間膜動脈から右胃大網動脈が分岐する症例など,種々の変異を9.3%に認めた.

キーワード
腹腔動脈の分岐走行変異, 動脈走行異常と胃癌のリンパ節郭清


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