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日外会誌. 85(2): 102-109, 1984


原著

人工血管吻合部の力学的強度に関する研究

横浜市立大学 医学部第1外科学教室(指導:松本昭彦教授)

熊本 𠮷一

(昭和58年4月13日受付)

I.内容要旨
吻合部動脈瘤発生の要因として,縫合糸の材質と生体血管の病的変化とが夫々どの程度関与しているかを検討するために実験的研究を行ない,あわせて教室の症例に検討を加えた.
雑種成犬の腹部大動脈に平織りテフロン人工血管を移植した.縫合糸としては一側に絹糸,他側に吸収性縫合糸であるpolyglycolic acid sutureを使用し,移植後1週より16週にかけて屠殺し,移植人工血管を生体血管を含めて切除採取し,両側の抗張力を測定した.その結果移植後16週においては縫合糸の担う抗張力は全体の抗張力の8%であった.残り92%は新生外膜が担つていることになる.縫合糸の担う抗張力とは縫合糸,生体血管,人工血管の3者でつくられた力である.他方新生外膜の担う抗張力は92%と大きく,吻合部動脈瘤発生予防のためには重要と考えられた.実験中,平織りテフロン人工血管と新生外膜との間にはズレの現象が起こることが観察され,これを予防するためには人工血管と周囲組織とが密に固着する人工血管が有用であると思われた.
1964年初めから1982年6月まで我々の教室で行なった人工血管移植臨床例は125例で,そのうち9例に吻合部動脈瘤が発生した.発生症例を縫合糸別に検討してみると,1964年から1969年までは主として絹糸が使用されており発生率は19.2%であった.1970年以降は合成線維が使用されており,発生率は4.0%であった.つまり臨床例においては縫合糸の重要性が強調されるわけであるが,この差異は臨床例においてはほとんどの場合,生体血管自体が病的変化を有しており,また人工血管の器質化は悪く,新生外膜の担う抗張力は低下し,縫合糸の担う抗張力が相対的に増加するためと考えられた.

キーワード
吻合部動脈瘤, 吻合部抗張力, 平織りテフロン人工血管, 人工血管, 外面ベルアグラフト


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