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日外会誌. 85(1): 56-64, 1984


原著

フローレッセン蛍光法による虚血腸管の予後の判定に関する実験的研究

*) 慶応義塾大学 外科学教室(主任:阿部令彦)
**) Johns Hopkins大学 外科

天野 洋*) , Stanley R. Hamilton**) , Gregory B. Bulkle**)

(昭和58年4月2日受付)

I.内容要旨
フローレッセンナトリウムを静注して観察される腸管壁の蛍光パターンにより虚血腸管のrecoveryを予測するフローレッセン蛍光法が,腸管の色調や拍動などの観察による肉眼的な判定法と比較して虚血腸管の予後をより適確に判定し得るか否かを知る目的で実験的研究を行った.
ラット回腸の絞扼モデルにおいて腸管虚血がラットの全身状態に与える影響を可及的に除く目的で抗生剤と補液を充分に投与した.その結果ラットの生存率はほぼ100%となり,ラットの経時的な屠殺により虚血腸管のrecoveryを形態学的に観察することが可能となった.この観察から虚血腸管のrecoveryが阻血後2日目には形態学的に判定可能であることが示された.
同様の実験モデルに対してフローレッセン蛍光法を施行した結果,normal pattern,fine granular pattern,coarse granular pattern,perivascular pattern,no fluorescenceの5つのパターンが観察された. normal patternおよびfine granular patternは全例がrecoverし,perivascular patternおよびno fluorescenceは83%が壊死となり,これ等のパターンの場合虚血腸管の予後はほぼ正確に予測し得た.coarse granular patternは半数がrecoverし,虚血腸管recoveryの予測に関してboder lineのパターンと考えられた.フローレッセン蛍光法と通常の肉眼的方法の2つの方法により虚血腸管の予後について推定し,阻血後2日目の屠殺による結果と対比したところ,recoveryの予測に関してsensitivity,specificity,predictive value,overall accuracyの全ての面でフローレッセン蛍光法が優れていた.以上のことからフローレッセン蛍光法はその手技も簡便であり,臨床的にも絞扼性イレウスや腸間膜動静脈閉塞症などの疾患において虚血腸管のrecoveryの判定に関して有用な手段となり得ることが示された.

キーワード
フローレッセン蛍光法, 虚血腸管, intestinal recovery, intestinal ischemia


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