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日外会誌. 85(1): 6-16, 1984


原著

皮下移植腫瘍のリンパ行性転移に関する研究
-特に手術と宿主栄養に関連して-

東北大学 医学部第2外科

廣﨑 晃雄

(昭和58年3月26日受付)

I.内容要旨
癌の手術において,癌の機械的刺激は癌細胞を遊離させ転移形成を促がす可能性があり,このことは術中に血中癌細胞が高率に認められることによつて証明されている.癌細胞のリンパ行性転移に関しても同様なことが考えられる.そこで,癌細胞のリンパ行性の拡がり方と所属リンパ節の役割り,特に外科手術時におけるそれを明らかにするために,ラット後肢足背皮下に2系の腹水腫瘍(AH109A,AH 272)を移植し,これに原発巣切除,リンパ節郭清術を加え,リンパ節転移の動態,予後を観察する実験を行った.一方,担癌体は手術時すでに低蛋白栄養状態に陥つていることが多いが,この様な状態におけるリンパ行性転移形成は,栄養の良いものに比べてどんな差があるのかは興味深い.そこで低蛋白栄養動物をつくり,同様な実験を行った.結果: 1) 低栄養状態での腫瘍移植率は,通常食群と比べて悪く,移植細胞数の少ないほどその差は顕著となった. 2) リンパ節転移の経時的検索では,通常群でAH109A移植2時間後にはすでに膝窩リンパ節に腫瘍細胞の存在があったが,この時期の移植部位切断によつても生存ラットが得られ,リンパ節内で死滅する腫瘍細胞が少なくないことを示していた. 3) 低栄養群では通常群に比べ膝窩リンパ節への倒達は遅れ,リンパ節転移の頻度も少なかった.特に,AH272において著明であり,移植24時間後の原発巣切除のみの外科手術においても全例生存した.4) 予め膝窩リンパ節を切除したリンパ節欠損動物を作ると,両腫瘍系とも栄養状態にかかわりなく高い死亡率を呈し,リンパ節転移の分布がリンパ節をもつ動物に比べて著明に促進した.また,リンパ節欠損ラットに細胞数を減じた腫瘍を移植すると,対照群にみられなかった遠位リンパ節への転移が多くなった. 5)リンパ節が腫瘍細胞の拡がりに対して,機械的ならびに機能的にBarrierとして働いていることが明らかにされた.

キーワード
リンパ行性転移, 手術, 栄養, Barrier


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