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日外会誌. 84(11): 1138-1148, 1983


原著

心筋挫傷の病像に関する臨床的研究

日本医科大学 胸部外科(主任:庄司佑教授)

益子 邦洋

(昭和58年1月27日受付)

I.内容要旨
過去7年間に経験した鈍的胸部外傷333例のうち,経時的心電図検査およびCPK-MB測定から心筋挫傷と診断したのは25例(7.5%)であつた.受傷機転では交通事故が多く,中でもハンドル外傷が12例を占めた.胸部合併損傷は延べ72損傷, 1症例平均2.9損傷であり,胸部の骨折,肺挫傷,血胸などが多かつた.胸部以外にも重篤な損傷を有する多発外傷は17例(68%)で,腹部実質臓器損傷,四肢長管骨骨折,骨盤骨折の合併頻度が高かつた.また,胸痛を95%,胸背部の挫創,擦過創,打撲痕を56%の症例で認めた.入室時血圧は98.3±5.2mmHg,心拍数は114.2±4.5/分,呼吸数は28.7±1.9/分であり,動脈血ガス分析では低酸素血症,低炭酸ガス血症,代謝性アシドーシスを認めた.心電図異常は入室時では洞性頻脈が,経過中ではST,Tの変化が主であったが,入室時に全く心電図異常を認めなかつたものが4例あつた.胸部X線写真上CTRは第2~4病日に最高値を取り(55.2±1.3%)以後減少した.また,左1弓から4弓までの心左縁の直線化を呈した4例中3例で心タンポナーデを認めた.CPK-MBは第1~3病日にピークに達し,以後急激に正常化した.死亡例は10例,死亡率40%であつたが,心タンポナーデや心原性ショックなどの心臓死は4例であつた.心機能を測定し得た11例中両室不全を呈したのは4例であり, うち3例が死亡し, この群の予後が極めて不良であつた.以上の臨床的検討から著者は心筋挫傷を次の3型に分類した.
I型:心電図異常型…………13例
II型:心タンポナーデ型…… 7例
III型:心原性ショック型…… 6例
心筋挫傷の診断は,まずその存在を疑うことに始まり,次に経時的な心電図検査とCPK-MB測定が重要である.また,ショック例に対しては積極的にSwan-Ganzカテーテルを挿入し,心機能を評価することが重症度および予後の判定に有意義であると考えられた.

キーワード
心筋挫傷, 心電図異常, CPK-MB, 心機能, 心原性ショック


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