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日外会誌. 84(10): 1061-1071, 1983


原著

膵広範切除後の胃液分泌の研究
特にSandmeyer型糖尿病における消化管ホルモンと胃酸分泌の変化について

三重大学 医学部第一外科学教室(指導:水本龍二教授)

喜多 豊志

(昭和57年12月27日受付)

I.内容要旨
膵広範切除後の胃液分泌の変化とその機序を明らかにする目的で以下の研究を行つた.雑種成犬にHeidenhain pouchを作成した後,全膵の50%以上の切除を行つて,膵全摘, 90%以上の膵切除,70~90%膵切除, 70%以下の膵切除にわけ,膵広範切除後の糖代謝やインスリン分泌及び膵性グルカゴン分泌の変化を検索するとともに胃酸分泌, ガストリン分泌及びセクレチン分泌を検索して次の結果を得た.
1)膵全摘及び90%以上の膵切除では術直後より糖尿病を発生し,インスリン及びグルカゴン分泌は著しく低下し, 食餌刺激及びHistalog刺激後の胃酸分泌は有意に亢進したがガストリン分泌は有意に低下し,セクレチン分泌は亢進した.
2)70~90%の膵切除では術後6週以後にいわゆるSandmeyer型糖尿病を発生し,これに伴つてインスリン分泌は低下したがグルカゴン分泌は亢進した.食餌刺激及びHistalog剌激後の胃酸分泌は糖尿病発生後3週以降では有意に低下し, 6週以後になると胃酸分泌の低下はさらに著明となつた. ガストリン分泌も糖尿病発生後3週以降に有意に低下したがセクレチン分泌には有意の変化を認めなかつた.
3)70%以下の膵切除では術後66週までの観察でも糖尿病の発生をみずインスリン分泌やグルカゴン分泌は正常に近く維持されており, 胃酸分泌及びガストリン分泌にも著変を認めなかつた.
以上の成績から,膵広範切除後の胃酸分泌の変動はガストリン分泌とは相関せずグルカゴン分泌と逆相関するのが認められた.さらに90%以上膵切除や膵全摘後では胃酸分泌は亢進して膵外分泌障害との関係が示唆された.
一方,70~90%膵切除後では糖尿病のすすむに従つて胃酸分泌は低下するが,その機序としてSandmeyer 型糖尿病の特徴であるグルカゴン及びソマトスタチンの分泌亢進が指摘された.

キーワード
Sandmeyer型糖尿病, 膵切除後胃酸分泌, ガストリン, グルカゴン, セクレチン


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