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日外会誌. 84(10): 1031-1041, 1983


原著

食道癌患者の栄養評価に関する臨床的研究
-特に栄養評価指数(nutritional assessment index, NAI)の有用性について-

高知医科大学 第二外科

岩佐 正人

(昭和57年12月3日受付)

I.内容要旨
食道癌手術症例130例について栄養評価を行い,術前合併療法としての成分栄養法(elementaldiet,ED),経中心静脈高カロリー輸液(total parenteral nutrition,TPN)による術前 hyperalimentation の効果,ならびに術前後の栄養管理の総合的指標としての栄養評価指数(Nutritional Assessment Index,NAI)を算出し,その有用性について検討し,以下の知見を得た.
1)術前hyperalimentation導入前の症例64例では,術直前には入院時に比べて,血清総蛋白(TP),アルブミン(Alb)等の栄養学的指標は低下していたが,導入後の症例ではこれらの指標は,維持改菩されており, ED,TPNによる術前hyperalimentationが,術前の栄養状態の維持改菩に有用であることが示唆された.
2)食道癌手術症例35例について,非合併症群, 合併症群,死亡群の三群をよく判別する栄養学的指標として,上腕周囲(AC),上腕三頭筋部皮下脂肪厚(TSF),上腕筋肉周囲(AMC),Alb,プレアルブミン(PA), レチノール結合蛋白(RBP),PPD皮内反応が有用であつた.
3)これら7つの栄養学的指標を用い,推計学的手法により,総合的栄養状態を表す栄養評価指数(NAI)を作成した.すなわち,NAI=2.64AC+0.6PA+3.7RBP+0.017PPD-53.8である.これにより栄養状態をNAl≧60 をgood,60>NAI≧40 をintermediate,40>NAIをpoorとstage分類した.
4)食道癌手術症例31例においてprospectiveにNAIと術後経過との相関を検討したところ,術後合併症発生率,死亡率ともにgood<intermediate< poorであり,栄養状態不良な症例ほど合併症の頻度が大きく,また,有意に死亡率も高いことが認められた.
5)食道癌の進行度が進むに従い,栄養状態は低下傾向を示し,術前hyperalimentationの効果も不良であった.
6)術後は経過の良好な症例ほどNAIの上昇も早く,術後の回復の程度を知るうえにもNAIは有用であると考えられた.
以上,術前hyperalimentationによる術前栄養状態の維持改善は,術後合併症の軽減,手術成績の向上に有用であり, NAIは術前術後の栄養管理上,総合的栄養指標として有用であると考えられた.

キーワード
食道癌, elemental diet (ED), total parenteral nutrition (TPN), 栄養評価指数nutritional assessment index (NAI)


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