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日外会誌. 84(7): 623-637, 1983


原著

末梢動脈血行再建術における血管内血流流速分布特性の解析
-特に術後血栓形成に対する異常辺流の影響について-

九州大学 医学部第二外科学教室(指導:井口 潔教授)

家守 光雄

(昭和57年11月10日受付)

I.内容要旨
末梢動脈血行再建術における再建動脈の予後を左右する流体力学的因子を明らかにするため,再建動脈の直線部分,および血管移植において移植片口径が宿主動脈口径と一致しない場合に生じる流路の拡張あるいは狭窄部分における血流の流速分布特性を解析した.血流流速分布解析には,教室で作製した血流流速波形シミュレーションポンプを用い,血行再建術後に得られた各種の血流流速波形(O,I,II,III,IV型)の流れについて比較検討した.また,直線部分の流れについては,血管壁面剪断応力の数値解析も併せ行ない,各波型流れについて比較検討した.再建術後良好な開存が得られるO,I型波形の流れでは,流路の直線部分,拡張部分,狭窄部分のいずれにおいても,管壁に沿う領域において心収縮期に大きな流速勾配が形成されまた心拡張期にはこの領域で逆流が起こり,一心周期を通じて大きな流速変化がみられた. II型波形の流れでは,管壁に沿つての流速勾配,および一心周期を通じての流速変化が,O,I型波形流れに比して小さかつた.一方,術後早期閉塞をきたすIII,IV型波形の流れでは,管壁に沿つて常に流れの淀みが認められた.血管壁面剪断応力は,O,I型波形の流れでは,一心周期を通じて正,負両方向に大きな変動が認められ,各瞬間における壁面剪断応力の変化の絶対値の総和 Σ|⊿τ|は108.6±8.8dyn/cm2であつたのに対して, III,IV型波形の流れでは5.3±0.7dyn/cm2および5.8±1.0dyn/cm2と小さく,また一心周期を通じての経時的変化に乏しかつた.以上の解析結果から,再建動脈の予後を良好に保つために重要な流体力学的因子は,血管壁に沿う領域で大きな流速変化が形成されることであり,また早期閉塞の原因は,この領域における流れの淀みであると考えられた.

キーワード
末梢動脈血行再建, 血流流速波形, 血流流速波形シミュレーションポンプ, 血管内血流流速分布, 壁面剪断応力


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