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日外会誌. 84(7): 612-622, 1983


原著

穿刺吸引細胞診による甲状腺腫瘍の診断

愛媛大学 第二外科教室(指導:木村 茂教授)

東権 広

(昭和57年11月8日受付)

I.内容要旨
甲状腺腫瘍の良性・悪性の鑑別は必ずしも容易でない.近年,穿刺吸引細胞診による甲状腺腫瘍の鑑別診断が報告され,次第にその有用性が認識されるようになつた.本研究では637例の甲状腺腫瘤に穿刺吸引細胞診を施行し,良性,悪性例に出現する各細胞診所見(核内封入体,多核細胞,核異形性,核クロマチン構造,細胞配列,細胞過密集積性,砂粒腫,核分裂など)の頻度を求め,客観的診断を下すため検討を加えた.
(1)細胞採取された514例全体の細胞診の正診率,疑陰性率,疑陽性率はそれぞれ,88.9%,7.0%,4.1%であつた.悪性例に対する細胞診断と臨床診断の疑陰性率はそれぞれ17.8%,33.3%であり,細胞診の方が臨床診断より優れていた.(2)誤診の原因としては,癌と良性腫瘍の合併例が24例(66.7%)と最も多く,次いで核異形を認めなかつた沪胞腺癌が7例 (19.4%)と多かつた.(3)嚢胞形成などで細胞採取されなかつた123例のうち,癌病変自体が嚢胞を形成していた症例が7例(乳頭腺癌6例,沪胞腺癌1例)あつた.嚢腫液を吸引した場合でも常に乳頭腺癌の嚢胞形成を念頭におかなければならない.(4)核内封入体は乳頭腺癌,沪胞腺癌,末分化癌,髄様癌に出現し,良性腫瘍には1例も出現しなかつた.他の細胞診所見のうち,悪性例に出現する比率の高いものは,多核細胞89.7%,核異形性90.6%,粗顆粒状クロマチン88.6%,乳頭状細胞配列86.9%,細胞過密集積性73.6%であつた.(5)穿刺吸引細胞診による合併症は極少数例に皮下出血がみられたのみである.(6)穿刺吸引細胞診は各細胞診所見から組織型の推定が充分可能であり,術前治療方針に非常に役立つた.

キーワード
甲状腺腫瘍, 穿剌吸引細胞診, 核内封入体


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