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日外会誌. 84(7): 591-601, 1983


原著

外科手術患者の糖代謝に関する研究
-血漿グルカゴン値の変動を中心に-

新潟大学 医学部外科学教室第一講座(主任:武藤輝一教授)

松原 要一

(昭和57年11月8日受付)

I.内容要旨
外科手術患者40例を手術侵襲の程度により大,中,小の3群に分け,術中・術後の血漿グルカゴン値 (IRG) を測定し,その変動を明らかにするとともに,手術患者の糖代謝の変化をグルカゴン分泌機序の面より検討した.
大手術侵襲群のIRGは術前すでに高値 (171±76pg/ml) であつたが,術中さらに上昇した (250±100pg/ml,p<0.1).術後では1日目に著しい上昇がみられ (421±150pg/ml,p< 0.005),3日目には下降したがまだ前値よりも高値であつた (233±40pg/ml,p<0.05).
中手術侵襲群のIRGは術前は正常範囲 (74±29pg/ml) であつたが,術中は大手術侵襲群に比べれば低いがやはり上昇した (125±70pg/ml,p< 0.02).術後では1日目 (133±44pg/ml),2日目 (169±52pg/ml),3日目 (163±58pg/ml),4日目 (156±48pg/ml) ともほぼ同程度に上昇した (p<0.05,p<0.05,p<0.05,p<0.05).
小手術侵襲群のIRGは術後経日変動のみを検索をしたが,術前は正常範囲 (75±30pg/ml) で,術後もほとんど変動を認めなかつた.
中手術侵襲群における術後2日目のIRGは各種糖質の静脈内投与により全て下降した.しかしその変動パターンは糖質の種類により異なつた.すなわちIRGの下降はグルコース投与で最も著しく,ソルビトール投与で軽度であつた.糖質投与終了後2時間目のIRGはマルトースおよびフルクトース投与例で前値より低値であるのに対し,グルコースおよびソルビトール投与例ではほぼ前値と同様で,キシリトール投与例では前値より高値を示した.
以上より手術患者のIRG上昇は,術中,術直後 (1日目) は手術侵襲の大きさに影響され,その後は5日目に前値に近くもどるまでは飢餓の影響が加わり,グルカゴン分泌が亢進するためで,糖新生の亢進に重要な役割を果たしていることが示唆された.

キーワード
手術侵襲, 糖代謝, 血漿グルカゴン値, 高グルカゴン血症, 糖質輸液

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