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日外会誌. 84(6): 471-487, 1983


原著

担癌患者と凝固・線溶系の異常一臨床的意義と癌組織の線溶学的特性について

愛媛大学 医学部第2外科教室(指導:木村 茂教授)

佐藤 元通

(昭和57年10月26日受付)

I.内容要旨
担癌患者では凝固・線溶系に異常を有することが知られているが,その臨床的意義は必ずしも明らかでない.そこで消化器癌患者129例の凝血能(APTT,PT,Fbg,antithromhin III (AT III),FOP,plasminogen (Plg),α1 antitrypsin (α1 AT),α2 macroglobulin (α2 M),α2 plasmin inhibitor (α2 PI),血小板数 (Plat))を調べ癌の進行度,経過中の推移,肝機能,相互の関係などを検討すると共に癌組織94例の線溶能 (A) と線溶阻止能 (I) を求め検討した.
1)消化器癌患者では,進行と共に凝固・線溶系の異常がみられ,術前値がPT≦85%,AT lll≦25mg/dl,FDP≧5μg/ml,α1 AT≧340mg/dl,Plg≦10mg/dl,α2 Pl≦80%のときは非治癒手術に終わった例が多く,治癒切除の可否の判断に有用である. 2)末期群では死亡前6カ月頃よりFDP陽性に転ずると共にPT,AT III,Plg,α2 PIの漸減傾向がみられ,その他α1 ATの上昇,Fbg,Flatの変動も認められた.3)胃癌患者では凝血学的平衡状態にあたると考えられたが,PT,AT Ill,Plg,α2 PIなど消費性因子とFbg,α1 AT,Platなど反応性因子が異なる変動を示し,凝血能には肝機能ではChE,Albなどが,腫瘍マーカーではFerritinが関係していた.4)胃癌術後再発診断にはPT,AT III,α1,AT,α2 PIの推移が有用で,腹膜再発によるイレウスと癒着によるイレウスとの鑑別診断にも役立つ.5)癌組織は正常組織にみられることの少ない線溶阻止能を有し, A/I比は食道癌,肝癌,胆道癌,膵癌などで低く,甲状腺癌,大腸癌で高いことより悪性度をある程度反映していると考えられた. またA/I比は腺癌より扁平上皮癌で低く,分化度の低いもので低値を示した. 6)胃癌において全身的な凝血能とA/I比は相関を示さなかった.
以上担癌患者の凝血学的異常の臨床的意義と癌組織の線溶学的特性を明らかにしたが,その異常の発現には腫瘍量,肝機能,担癌状態による非特異的刺激機構,免疫抑制状態などが関与し,複雑な病態を形成していることが推察された.

キーワード
慢性汎発性血管内血液凝固症候群, 凝固異常, 線溶異常, 組織線溶能, 組織線溶阻止能

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