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日外会誌. 84(5): 452-464, 1983


原著

代用血管としての人なめし大伏在静脈の検討

千葉大学 第1外科

上村 重明

(昭和57年9月22日受付)

I.内容要旨
現在,小動脈用移植代用血管としては,自家大伏在静脈以外に特に優れた代用血管がない.そこで死体より採取した正常な大伏在静脈と軽症の下肢静脈瘤患者の大伏在静脈を用い,蛋白融解酵素ficinとなめし薬glutaraldehydeで処理し,同種代用血管を試作し,長期移植実験を行い,小動脈用代用血管としての有用性を検討した.
作製方法の検討:強度試験,組織学的検討により, ficin処理時間, glutaraldehyde濃度を検討し次の結果を得た.
(1)ficin処理により強度は低下する.
(2)ficin処理時間は正常大伏在静脈は60分,下肢静脈瘤患者の大伏在静脈は90分が良い.
(3)glutaraldehyde濃度は1.5%が適当である.
移植実験:雑種犬36頭の腹部大動脈に, ficin無処理なめし血管12本(A群), ficin処理加なめし血管14本(B群), Gore-Tex10本(C群)を移植し, 1年以上経過観察を行い,次の結果を得た.
(1)各群の開存率は, A群83%(最長812日,平均334日), B群85%(最長737日,平均350日), C群80%(最長540日,平均310日)であり,各群間に有意差を認めなかつた.
(2)ficin無処理なめし血管は, pannus形成がやや強かつたが,内面に血栓層を形成せず,動脈瘤形成,石灰化等の変性もなかつた.
(3)ficin処理加なめし血管は1本に動脈瘤形成, 1本に拡張を認めた.
(4)Gore-Tex 4本に石灰化を認めた.
以上より, ficin無処理glutaraldehyde処理人大伏在静脈(A群)は,抗血栓性に富み,耐久性もあり,石灰化等の変性もなく,小動脈用代用血管として充分臨床応用可能である事を認めた.

キーワード
小動脈用代用血管, 人大伏在静脈, グルタールアルデヒド処理


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