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日外会誌. 84(4): 282-294, 1983


原著

可溶化腫瘍抗原による特異能働免疫療法の実験的研究

京都府立医科大学 第二外科

田中 承男 , 山岸 久一 , 稲葉 征四郎 , 小林 雅夫 , 内藤 和世 , 栗岡 英明 , 橋本 勇

(昭和57年8月30日受付)

I.内容要旨
C3H/Heマウスmethylcholanthrene肉腫(F腫瘍)の3M KCl抽出抗原液を等電点電気泳動で精製したpl 5.7~6.0の分画(Fr. 15)を用いた特異能慟免疫療法の検討を行つた. Fr. 15のimmunoprotection testでの至適蛋白量(10~25μg)の週1回の皮下注射を治療ベースにした. Fr.15を3回以上投与した場合, 103個接種群の腫瘍増殖の抑制を認めたが, 104個以上では無効であつた. 1cm径の皮下腫瘍を切除し, 103個再接種する人工的局所再発のモデルで治療効果を示した. 2cm径の腫瘍を切除すると,半数のマウスに局所再発をみるが,抗原投与により再発率は有意に低下した.切除とFr.15で治癒したマウスに,抗原性の異るD腫瘍を接種すると, control群と同様に腫瘍死することは,本法の免疫学的特異性を証明するものである. Fr.15は,術後のconcomitant immunityの維持,強化に有効であつた.しかし5mm径のestablished tumorに対しては無効であり, cyclophosphamideとの併用で治療効果を認めた.
腫瘍を正常マウスや, 1cm径皮下腫瘍の切除マウスに静脈内接種し, Fr.15投与を施行しても生存日数の延長はみられない.これはFr.15は静脈内接種後の肺腫瘍コロニー数は減少させるが,肺外腫瘍コロニー形成に対しては無効であるためである. F腫瘍をFidlerの方法でselectすると肺転移変異株がえられる(F-4). 1cm径にまで増大した皮下のF-4腫瘍を切除した場合, 61%のマウスに肺転移をみるが, Fr.15に依り肺転移は28%となり有意な抑制がみられ,生存期間の延長をみた. 3M KCl crude extractから等電点電気泳動でtumor enhancing fractionを除かれた, crude extractにくらべ約50倍強い抗原活性をもつimmunoprotective fractionは,少ない腫瘍量にではあるが治療効果を示した.従つて臨床的には,術後の微小癌の残存の危険性の高いものや,微小転移巣に有効な手段である.将来抗原の精製がすすみ,化学療法剤との併用が出来れば,より有効な治療法となることが期待される.

キーワード
癌の特異能働免疫療法, メチルコラントレン肉腫, 3M KCl可溶化腫瘍抗原, immunoprotective fraction

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