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日外会誌. 83(12): 1398-1410, 1982


原著

虚血性腸管吻合の創傷治癒に関する実験的ならびに臨床的研究
-組織酸素分圧を中心として-

慶応義塾大学 外科学教室(指導:阿部令彦教授)

天野 洋

(昭和57年6月17日受付)

I.内容要旨
微小酸素電極を腸管筋層に刺入して測定される組織酸素分圧(tissue oxygen tension, 以下PtO2と略記する)が虚血性腸管のviabilityおよび腸管吻合部創傷治癒の良否を判定する指標となり得るかを知る目的で以下の研究を行なつた.まず酸素電極の感度の直線性,温度誤差,残余電流値,動揺影響,応答時間の検討を行ないその信頼性を確認した.つぎに実験的に117頭のイヌ回腸に3~9cmの長さのdevascularizationによる虚血性状態をつくり筋層内のPtO2を測定した.その結果PtO2 20mmHg以上では腸管壊死がみられなかつたのに対し,20mmHg未満では85%が壊死となり20mmHgがviabilityの限界と考えられた.阻血部の吻合ではPtO2 30mmHg以上で縫合不全が見られなかつたのに対し30mmHg未満では69%が縫合不全となり,30mmHgが吻合の限界と推定された.また吻合部のPtO2が低い場合の治癒は形態学的には腸管各層の融合が劣り吻合部を中心とした壊死と強い炎症所見がみられたこと,物理学的には吻合部抗張力が低値であり,生化学的には吻合部hydroxyproline量が低値をとり正常腸管の治癒と比較して著しく障害されていた.
つぎに実験的研究結果を考慮して臨床例について検討を加えた.頸部食道胃管吻合術19例において食道および胃管吻合部のPtO2を測定したところ,これが低値となつた症例に縫合不全が多発した.以上の実験成績および臨床例の検討から組織酸素分圧は腸管のviabilityの判定や縫合不全の予測に関して有用な手段となり得ることが明確にされた.

キーワード
組織酸素分圧, 虚血性腸管, 創傷治癒, 縫合不全

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