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日外会誌. 83(6): 572-581, 1982


原著

膵・胆道系癌における血清α1-Antitrypsinの変動

長崎大学 医学部外科学第2講座(主任:土屋凉一教授)

宮本 峻光

(昭和57年2月10日受付)

I.内容要旨
膵・胆道系癌の診断法には大きく分けて形態学的なものと血清学的なものがあり,それらの診断率は検査法や腫瘍の大きさなどにより若干の差はあるものの,70~90%でありほぼ満足できるといえる.しかしその対象となつている疾患の大部分は進行癌であり,切除可能ないわゆる早期癌に対する診断率は低い.しかもこれまで膵・胆道系癌に対する診断法が種々検討されてはいるが,まだ原発性肝癌におけるα-Fetoproteinに匹敵するものはない.そこで著者は血清学的マーカーに利用しうるものとして血清糖蛋白であるα1-Antitrypsinに注目した.等電点電気泳動法によつて,α1-Antitrypsinを泳動・分離し,そのBanding Patternを膵・胆道系の各種疾患について検討したところ,良性悪性の鑑別が可能とわかつたので,まず診断基準を作り,悪性の診断を陽性,悪性の疑いを疑陽性,良性の診断を陰性とした.この基準の下にスクリーニングテストとして検討したところ,膵・胆道系癌の90%が陽性であり,切除例でも86%が陽性であつた.一方,健康成人や慢性膵炎例での陽性率は低く疑陽性を含めても10%以下であり,また原発性肝癌や胃癌の陽性率も夫々23,33%にすぎなかつた.このようにα1-Antitrypsin Banding Patternの検討は,血清を検体とすること,検査法が容易なこと,正診率が高く疑陽性や誤診率が低いこと,臓器特異性があることなどにより,膵・胆道系癌のスクリーニング・テストとして非常に有用であると結論した.

キーワード
膵癌, 胆道系癌, α1-Antitrypsin, α1-Antitrypsin Banding Pattern

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