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日外会誌. 83(5): 473-485, 1982


原著

膵液胆道内逆流の閉塞性黄疸に及ぼす効果

三重大学 第1外科学教室(主任:水本龍二教授)

佐々木 英人

(昭和56年12月16日受付)

I.内容要旨
膵液の胆道内逆流の閉塞性黄疸に及ぼす影響を明らかにする目的で以下の実験を行つた.雄性Wister系ラットの肝外胆管を低位,高位,さらにその両者で二重に結紮する3群の実験群を作成した.低位結紮群では胆管と膵管が共通管を構成して胆汁と膵液の混入がおこり,高位結紮群では胆管のみが閉塞され,二重結紮群では胆管と膵管とは夫々独立して遮断され膵液と胆汁は混入しない.さらに二重結紮群を膵管内胆汁注入の有無によつて2群にわけた.
平均生存期間は高位結紮群では7.4週,二重結紮群では5週であつたが,低位結紮群では1.4週と短く全例30日以内に死亡した.体重は高位結紮群では正常対照群とほぼ同様に増加したが,低位及び二重結紮群では減少した.
血清T-Bil,D-Bilは低位結紮群では術直後より上昇して7日目にpeakを示したが,高位及び二重結紮群では2週でpeakをとり以後やや減少してplateauとなつた.胆管は組織学的に低位結紮群の結紮上部及び二重結紮群の結紮間では3日目の早期より上皮細胞の変性脱落,弾性線維の断裂,消失等の変化が著しく,高位結紮群の結紮上部では3週以降になつて初めて軽度の変化が認められた.なお二重結紮群で結紮上部の胆管の変化は高位結紮群のそれと同様であつた.肝は高位結紮群では6週以降になつて偽小葉形成がおこりさらに胆汁性肝硬変へと移行するのが認められたが,低位結紮群では3週ですでに偽小葉が形成され4週で胆汁性肝硬変となるのが認められた.また胆汁中の膵原性phospholipase A2活性は低位結紮群のみに認められ,かつその肝内胆管にもphospholipase A2活性を認めることができた.
以上の成績から膵液の胆道内逆流がおこると胆管壁の変化のみならず肝機能障害,肝細胞壊死等が惹起され,これが閉塞性黄疸を遷延させる一因となりうるものと考えられた.

キーワード
膵液胆道内逆流, 閉塞性黄疸, 黄疸遷延因子, phospholipase A2, 肝細胞ミトコンドリア


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