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日外会誌. 83(4): 384-395, 1982


原著

肝静脈および下大静脈の外科的解剖に基づいた肝切除術の検討

慶応義塾大学 医学部外科学教室(主任:阿部令彦教授)
現:浜松医科大学 第2外科学教室

中村 達

(昭和56年11月24日受付)

I.内容要旨
巨大な肝腫瘍に対する広汎肝切除が行われ,肝硬変合併肝癌に対しては肝区域切除が行われるようになつた.このためには肝静脈と下大静脈のsurgical anatomyの知識が必要である.そこで肝臓に病変のない病理解剖用屍体83体を用いて①肝静脈の分岐型とその変異,②肝静脈の下大静脈合流部近傍での分枝までの各部分の距離の計測,③下大静脈に右房から腎静脈までの間に流入する各静脈間の距離の計測,④右副腎静脈の分岐型,などについて検索し,この結果をもとに肝臓外科で用いられている種々の手技についてその合理性,安全性および問題点を検討した.また著者らの行つた臨床例25例の肝切除についてとくに肝静脈の処理について検討を加えた.
その結果①右肝静脈は下大静脈流入部から1cmまでの間に分岐するものは4型に分けられ,94%が1本の本幹をもつ,②肝右葉をドレナージする肝静脈の組合せは3型に分類された.③左,中肝静脈は84.3%が共通幹を形成し,下大静脈から左中肝静脈分岐部まで1.0±0.5cmである.左,中肝静脈の分岐部近傍では複雑多岐な分岐型を示した.④右副腎静脈の下大静脈流入型は数と部位により4型に分類された.⑤尾状葉静脈は下大静脈より分岐してすぐ4~5本に分岐し,数と流入部位により4型に分類された.
肝切除において肝静脈を処理したうえで肝実質を切離することが望ましいが,右肝静脈の下大静脈流入部附近は結合織が多く剥離が困難であり,左,中肝静脈の分岐部近傍では複雑多岐な分岐を呈している.このため肝静脈を結紮できるものは結紮したうえで肝実質を切離し,できないものは肝実質切離途中に現れた肝静脈を結紮切断していく方法が安全である.肝右葉切除,Vascular isolation techniqueや下大静脈血流遮断を行う際,右副腎静脈の分岐型に十分な注意を要する.肝上部下大静脈は心嚢内下大静脈にテープをかける方が容易である.

キーワード
肝静脈, 下大静脈, 右副腎静脈, 肝切除

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