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日外会誌. 83(3): 277-284, 1982


原著

食道癌患者におけるリンパ節の反応形態
-局所ならびに全身的免疫因子との相関において-

福岡大学 医学部第2外科

三戸 康郎 , 平塚 隆三 , 土器 潔 , 土器 辰雄

(昭和56年10月23日受付)

I.内容要旨
食道癌患者32症例の免疫学的動態を検索する目的で,切除食道癌標本,廓清された所属リンパ節のリンパ球を中心とする反応形態を病理組織学的に観察し,その結果を癌の進展・転移様相や全身的免疫反応パラメーターと比較検討してみた.
まず食道癌患者の術前の皮膚反応による免疫パラメーターのうち,PPD反応は74.1%に,PHA反応は33.3%に陽性を示した.食道癌病巣周辺のリンパ球浸潤による防禦反応は63.6%に認められ,これはPPD反応と73.3%の相関を有していた.
食道癌患者における所属リンパ節の反応形態を,両側鎖骨上窩リンパ節,上縦隔リンパ節ならびに旁食道局所リンパ節のsinus histiocytosis(SH)及びfollicular hyperplasia(FH)の程度によつて観察した.局所および上縦隔リンパ節の反応形態はSH,FH反応ともに13~20%と低率であるが,術前放射線照射例の方が,FH反応は非照例に比べ低く,SH反応は逆に10%程度上昇していた.局所あるいは上縦隔に転移が起ると,その周辺のリンパ節のSH,FH反応は共に上昇する.鎖骨上窩リンパ節の反応形態は,SH反応が右側リンパ節で50%,左側で25.8%と,右鎖骨上窩リンパ節の反応の方が強い.FH反応は右左ともに10%以下と低率である.鎖骨上窩リンパ節のSH反応をさらに精細に分析してみると,頚部リンパ節に転移がある場合には,右側が42.9%,左側が33.3%に反応するが,転移がない場合にも,右側で52.6%,左側で24%と比較的高いSH陽性率を示す.この原因を分析してみると,胸腔内上縦隔リンパ節に転移がある例では,右鎖骨上窩リンパ節のSH反応の陽性率は85.7%,左側で50%と,上縦隔転移のない例のSH反応陽性率夫々右27.3%,左13.3%に比べ極めて高い陽性率を示し,胸部食道癌における右鎖骨上窩リンパ節のSH反応が,上縦隔転移の有無の指標として役立つことが明かとなった.
この様な食道癌所属リンパ節のSHを中心とする反応形態は,PPD,PHA皮膚反応,血清IgA,IgGなどの全身的な非特異免疫反応とは殆んど相関を示さず,ことにこれらリンパ節のSH反応は極く局所的な転移癌巣に反応し,局所的免疫防禦機構としてはそれなりに作動していることが明かとなった.

キーワード
食道癌, 鎖骨上窩リンパ節, sinus histiocytosis, follicular hyperplasia

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