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日外会誌. 82(10): 1268-1279, 1981


原著

血行再建後の腸管虚血についての臨床的,実験的研究

東京大学 医学部第1外科学教室(指導教官:草間 悟教授)

重松 宏

(昭和56年5月21日受付)

I.内容要旨
腹部大動脈,腸骨動脈領域の動脈硬化性閉塞性疾患及び腹部大動脈瘤に対する血行再建後の腸管虚血について,臨床的実験的検討を行なった.血行再建後の腸管虚血発生頻度は,大動脈腸骨動脈閉塞に対するバイパス手術例で6%,腹部大動脈瘤切除例で17.9%であった.腸管虚血発生部位はいずれもS状結腸を中心とした遠位側大腸であり,大動脈腸骨動脈領域に広範な閉塞を有し,下腸間膜動脈及び両側内腸骨動脈の3本中2本以上に閉塞性病変の認められる例で,大動脈両側大腿動脈バイパスを施行した場合に多く認められた.
実験的にイヌを用いて腰動脈,下腸間膜動脈,腹部大動脈を結紮するモデルを作製した.本モデルにより遠位側大腸に一過性病変型虚血性腸炎が作製され,その血流量低下は粘膜粘膜下層で59%であった.本モデルを作製してから3カ月後血行再建を行ない,グラフト遮断解除後上腸間膜動脈血流量低下は一過性に9%であり,腸間膜動脈領域から下肢への血流のsteal は軽度であったが,遠位側大腸管壁血流量は粘膜粘膜下層で45%,固有筋層で26%の低下が認められ,下肢への主な側副路となつていた大腸辺縁動脈血流量の低下を反映していると考えられた.また遠位側大腸管壁血流量は,内腸骨動脈遮断により20%の低下を示し,上腸間膜動脈血流量は, 腰部交感神経節切除により31%の低下を示した.
これらの結果から,血行再建後の腸管虚血は解剖学的原因や手術操作に伴う因子のみではなく,腸骨動脈領域をバイバスすることにより起こる腸骨動脈や大腸辺縁動脈の血行動態の変動などの因子が重畳して発生すると考えられた.

キーワード
大動脈腸骨動脈閉塞, 腹部大動脈瘤, 血行再建, 虚血性腸炎, 水素ガスクリアランス法


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