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日外会誌. 82(10): 1188-1198, 1981


原著

ショックの病理形態学的指標に関する研究

秋田県厚生連 平鹿総合病院 外科

皆川 憲弘

(昭和56年4月10日受付)

I.内容要旨
総数2,825例の剖検例から基準的症例群として小児の疫痢例を80例,成人のいわゆるポックリ病例を10例とそれ以外の多種な原因による「一般的」ショック例50例, 対照例30例(判断基準は日本外科学会卒後教育セミナーのもの)の合計170例を選び,主要臓器の肉眼的ならびに組織学的所見を精査した.そして病理形態像からショックの特徴を把握することを試みた.その結果,肝臓, 胃, 脾臓, 腎臓,肺の5種類の臓器にそれぞれ特有な病変が見出され,これらをもつてショックの病理形態学的指標とみなし得ることが明らかになつた.すなわち,肝臓では類洞周囲浮腫と小葉中心部壊死の少くとも一つ,胃では粘膜貧血,出血性糜爛および潰瘍,コーヒー残渣様内容,脾臓では濾胞周囲の好中球出現,腎臓では遠位尿細管上皮の核濃縮と上皮崩壊の少くとも一つ,肺では肺水腫である.
各臓器の代表的な病変とみなされたものは, いずれも動脈反応に基づいた末梢循環障害,それによるanoxiaから理解し得る性質のものであつた.
病変発生に関する臓器間の関連を経過24時間以内例で各臓器の病変について検討した結果,腹腔動脈域の3臓器(肝臓,胃,脾臓)での病変共存が最も高率であり,いずれも50%代であつた.さらにこれら3臓器のすべてに病変が共存する率でも36.7%にも達した.これに反して腎臓と肺の病変共存率はわずか27.6% にすぎない.また腹部3臓器の密接な関連性はショックの各時期を通じて成立していることも明らかになつた.従来,ともすれば腎臓,肺の病変が重視されがちであったが,むしろ上記3臓器の病変こそ,ショックの病理形態像を代表するより重要な病変と考えられた.
以上の結果を応用し,臨床経過不詳の例においても末期のショック状態の有無を病理形態像から判断することが可能になつた.

キーワード
ショック, ショックの剖検, ショック臓器, ショックの病理形態像, 病理形態学的指標

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