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日外会誌. 82(8): 907-917, 1981


原著

実験的急性膵炎における糖代謝の変動

岡山大学 医学部第1外科教室(主任:折田薫三教授)

大原 利憲

(昭和56年1月20日受付)

I.内容要旨
急性膵炎にみられる糖代謝の変動を検討する目的で以下の実験を行つた.
雑種成犬を使用し,自家胆汁膵炎群, trypsin膵炎群, collagenase膵炎群を作製し, 24時間にわたりglucose, immunoreactive insulin (IRI), immunoreactive glucagon (IRG), catecholamineの変動を測定した. さらに機能試験として24時間後にIVGTT(経静脈的糖負荷試験) ,7日目にarginine負荷試験を行つた.
組織学的にみた各群の特徴として,自家胆汁膵炎群では,膵管周囲への炎症細胞の浸潤および小葉問の浮腫がみられる程度の軽症型より,広範囲の出血および小葉内に壊死のみられる重症型まで種々の程度の膵炎がみられた. trypsin膵炎群は, 浮腫を主体とした膵炎である. collagenase膵炎群は,腺房細胞の破壊の少ない間質の炎症を主にした膵炎で, 1週間後には間質および小葉間の線維化が著明に進行し,膵自体の硬化もみられた.
1) 急性膵炎発症初期にみられる血糖上昇は, IRI,およびIRG の上昇する胆汁膵炎軽症型とtrypsin膵炎群ではみられたが,両者の上昇がみられないcollagenase膵炎群では認められなかつた. しかし,胆汁膵炎重症型ではIRI およびIRGの初期上昇がみられるにもかかわらず,血糖低下が認められた.これらの事より, 発生直後の血糖上昇はIRI,IRGのバランスで規定されると考えられ,胆汁膵炎群重症型でみられた低血糖は, ラ氏島β細胞破壊にともない多量のinsulin漏出が起こり,つづいてこれが胸管を経由して血中に流れこむためと解釈された.
2) 24時間後のIVGTTでは,3群ともIRI は正常の3~5倍の高反応, IRGン も反応性低下を示したが全体的には高値であり,特異的な過剰反応期が存在すると考えられた.
3) 7日目のarginine負荷試験ではIRI,IRG とも低反応であり膵内分泌の機能低下が観察された.

キーワード
急性膵炎, IRI, IRG, 糖代謝, 胸管

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