[書誌情報] [全文PDF] (6922KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 82(6): 575-586, 1981


原著

手術侵襲のインスリン分泌能に及ぼす影響に関する研究
特に肝硬変患者の経胸,経腹手術の比較について

九州大学 医学部第2外科(指導:井口 潔教授)

中山 真一

(昭和55年11月22日受付)

I.内容要旨
手術侵襲が糖代謝に種々の影響を及ぼすことは知られているが,手術の到達経路が経胸と経腹とで相異があるか否かについては,その報告がない.著者は手術時間,術中出血量などが同程度である経胸,経腹手術例について,術後経日的に糖負荷試験(IV-GTT)による耐糖能,インスリン分泌能を測定し,肝循環測定の結果と併わせて比較検討を行なった.
研究対象を食道静脈瘤を有する肝硬変症と,非硬変の肺および胃疾患の2群に大別し,前者を食道静脈瘤に対する経胸的直達手術と経腹的選択的シャント手術に,後者を肺および胃切除術に分けた.その結果,血糖消失率(K-Glucose)の術後変動には到達経路による差を認めないが,インスリン分泌能(⊿IRI/⊿BSおよびIRI max)では,肝硬変の有無にかかわらず,開腹手術において術後の高インスリン血症の傾向が強く示された. とくに,単位インスリン当たりの血糖消失率を示す指標として用いた(%)K/IRI max値は,経腹手術において,術後有意の低値を示した. また術中,術後の肝循環の測定ては, (%) K/IRI max値の術後変動に一致して,経腹手術は経胸手術よりも, 障害の程度が強いことも明らかにされた.この結果は,糖代謝におよぼす影響に関する限り,経胸手術の方が有利であることを示すものであり,食道静脈瘤に対する直達手術において,経胸手術の方が経腹手術よりも手術死亡が少ないとする教室の成績とも一致した.またここで用いた(%)K/IRI max値はSurgical diabetesの状態を表わす適切な指標となるものと考えられた.

キーワード
食道静脈瘤, 経胸的直達手術, 耐糖能, 肝循環, Surgical diabetes (K/IRImax)


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。