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日外会誌. 82(5): 483-497, 1981


原著

閉塞性黄疸のhyperdynamicな循環の病態とその意義に関する研究

東京大学 医学部第1外科教室(指導:草間悟教授)

斎藤 英昭

(昭和55年12月8日受付)

I.内容要旨
閉塞性黄疸のhyperdynamic な循環の発生機序とその意義を臨床及び実験的に検討した.感染症状のない閉塞性黄疸28例中13例, 46%に心係数3.5l/min•M2 以上のhyperdynamic stateを認めた.これら症例はnormodynamicな症例に比較し統計学上有意に腹水貯留例や経口糖負荷試験の異常例が多く, しかも胆道ドレナージ後の減黄効果が不良で, さらに術後頂要臓器障害の発生が高率であつた.これら症例の循環異常の特徴的所見は心係数の増加のほかに平均動脈血圧と末梢血管抵抗係数の著明な低下で,後2者の低下は総胆管結紮3週後の黄疸イヌでも認められた.これらの成績から閉塞性黄疸のhyperdynamicな循環の発症には肝機能障害を母体にした末梢血管抵抗の低下が関与していることが示唆された.
この末梢血管抵抗低下の発生機序を解明する目的で,両側頚動脈閉塞及びチラミンとノルエピネフリン静注により黄疸イヌの交感神経機能を検討した. 黄疸イヌでは頚動脈閉塞による平均動脈血圧の上昇は有意に低下し, かつ平均動脈血圧の最大増加量を指標にしたチラミンの用量反応曲線は右方移動し,逆に外因性ノルエピネフリンのそれは左方移動していた.これから黄疸イヌでの交感神経終末端内ノルエピネフリン量の減少が示唆された.
血漿アミノ酸分析では黄疸イヌでフェニールアラニンの有意な増加がみられ,さらに黄疸イヌでは正常イヌと異るチラミン静注後の経時的循環動態の変化が観察され,また血漿ノルエピネフリンは黄疸イヌで増加していた.
以上から黄疸生体のhyperdynamic な循環の発症には黄疸時のカテコラミン代謝異常にもとづく交感神経系機能障害のための末梢血管抵抗の低下が関与する可能性が考えられた.
さらに閉塞性黄疸患者の外科的治療にあたつては, hyperdynamicstate が肝障害の程度や予後に密接に関連していたことから,このような循環異常を充分把握する必要のあることを強調した.

キーワード
閉塞性黄疸, hyperdynamic state, false neurotransmitter, 末梢交感神経機能, 血漿アミノ酸

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